第25話 スカウトのあれこれ
1544年 7月
良い出来事と悪い知らせがあった。
まず、良いことは西暦が詳しくわかったことだ。
どうやらもうポルトガル人は種子島に漂流していて、現地の種子島某が鉄砲がを入手し、独自に製作して鉄砲を一丁幕府に献上したらしい。
漂流したのが去年の話で、献上したのは先月。
そこから前に1549年(以後良く)広まる鉄砲の頃から考えて逆算してみた。
なら今は1550年だな!と。
生まれてからずっと不安だったことが解消される。
そのことに安堵していたが、鷹瑳から知り得た情報により、頭を思い切り掻き毟りたくなった。
◇◇
鳴り物入りで来た孝綱には家中での協力者が少ない。なので少しでも力になろうと鷹瑳を見張りという名目で孝綱の元に送り込んだ。
これが上手くいったのだ。というより激的に良い化学反応だった。
鷹瑳も過去に白い目見られていた経験がある。その為か胡乱げに見られる孝綱に協力する事に積極的だった。
鷹瑳は北陸事情にまだ慣れない孝綱を上手に補佐し、孝綱から謀を学んでいく。
生来から腕が悪く、武辺働きが出来ない鷹瑳だ。謀将の元で働くのは良い刺激になるだろう。
と、仲良さげに仕事をする二人を見て、「俺も良い仕事をした」気になって一息ついていた。
そんな孝綱は猛将にして謀将だ。彼の元には色んな情報が舞い込んでくる。どんな些細なことでも。
「尾張の虎の嫡男は11歳になるが野党紛いのことをしているらしい」
おおよそ斎藤利政討伐の役に立つかどうか分からない、こんな内容でも孝綱の耳に入る。近くにいた鷹瑳にも聞こえたのだろう。
それが俺に伝わったのは、たまたま俺の所に来ていた鷹瑳が、一息ついていた俺に気分転換の話題に提供した時だった。
その話を聞いてから少し妙な感覚に陥り、鷹瑳と別れた後に信長の年齢や本能寺の変等の大きな出来事を、覚えている限りに書き記した。そこで鉄砲伝来による西暦合わせの計算が違うことに気が付いたのだ。
信長は本能寺でちょうど50歳を前に死ぬ。
信長の好きな舞と言われている敦盛の「人生50年」のフレーズと組み合わせてセットで覚えてたからだ。
好きな演目と同じ年齢で死ぬ。
脚本が用意されてるかのような死に方は、正しく日本史のエンターテイナーと当時は感心していた。
ともかく、信長を基準に考えると今が1544年だと知った。鉄砲伝来の語呂が間違えていたのである。
何だよ以後良くって!1549年何が広まるんだよ!
かなり憤っていたが、伝来するものは形あるものだけじゃないと気付く。
.....ああキリスト教か。
と、ふと思い出した。
本当に拍子抜けだ。と言うより間抜けだ。
色々焦ったが初めから信長を基準に考えれば良かったとあの時はかなり悔しい思いをした。
それでも西暦が知り得たのだ。
これで起こるであろう歴史イベントの年もわかるんだ。良しとしよう。
そして来月に幕府主導で、近江の国の国友に鉄砲鍛冶村を作るらしい。
それが俺の中で悪い知らせだった。
鍛冶職人を越前に誘致している途中だったのだが、幕府主導による政策には敵わない。実物の鉄砲も向こうにはあるので国友に向かう者が多いだろう。
救いなのは美濃にいる刀工集団。
兼定の弟子達を誘致することが出来たことだ。
俺は良く知らないが大人達は挙って喜んでいる。景紀殿なんて発狂してた。有能な刀鍛冶なんだろうな。彼等には朝倉の製鉄・鍛治技術を上げて貰おう。
その刀鍛冶集団は父上が甥に当たる土岐頼純に脅迫紛いにお願いし、許可証と紹介状を一筆書いて貰ったので、それを持って美濃に攻めいる前に誘致する手筈になった。
頼純は今回の事がどんなに悔しくても何も出来ない。
力無き者は食われる。それが戦国だ。悪いのは頼純だ。
そうなると転生先が朝倉家だったのは割りと幸運だったのかもしれないな。飢える事なんか無いし大事に扱われているのだから。農民だったら死んでいただろう。
この生活を維持するために未来を変えなければならないのは大変だが。
それと他家のスカウトだ。父上から許可を貰った。
ようやく正確な年号が分かったのだからスカウトもやりやすい。
許可を貰ってからは直ぐに滝川一益には既に仕官要請の文を送ってある。
とりあえず父上が言うにはどんなやつでも引き抜く前に先に報告しろと言ってきた。そこから自分達でも精査し、問題無いなら引き抜いて良いとの事だった。
先ずは織田と徳川から考えてみる。
有名処が多いから選り取りみどり。加えて敵から有力な将を奪えればますます良い。
ただ、そのせいで今川や斎藤にヤラレようものなら目も当てられない。歴史が変わりすぎるのも、先が読めなくなるから恐ろしいもんだ。
真田幸隆?内藤昌豊?豊臣秀吉?
彼等は既に朝倉にFA加入したけれど、...まだ大丈夫なはず!多分。
あ、アレだよ。武田も武田二十四将なんて呼ばれる武田の凄い武将から二人ほど引き抜いてしまったけれど、後22人もいるんだし!なんとかなるって!
秀吉だって台頭したのが1560年代の後半からだ。
それまでも幾つか武功は重ねてるかもしれないが、尾張統一や桶狭間という大きなイベントでは大した活躍は無かったハズ!
というか、その年代になる頃には俺の介入によって色んなことが大きく変わってるだろうし!
まぁ、やってしまったのだから仕方ない。深く考えるのは後にして今はスカウトだ。
紙に纏めるか。
尾張からの織田の有力な武将としてスカウトの芽があるのは
丹羽長秀を筆頭に前田利家、佐々成政に蜂須賀小六、村井貞勝、森可成かな?
佐久間信盛と柴田勝家は既に織田の家老だったはずだ。
十分に織田家で出世しているから勧誘は無理だろう。
前田は幼い頃から側近だったはず。小姓から馬廻衆を務めあげる程仲が良いが、武功も上げていたのは確かだ。
それと衆道の関係だったらしいし利家は厳しいかな?ただ若い時に同僚を殺したせいで出奔というか追い出されてたよな?
その時期にチャンスがあるかもしれん。
丹羽長秀は元々は尾張守護の斯波家に仕えてた気がするが、他は今のポジションや家格が分からないな。これは調べて貰う必要がある。
というか蜂須賀は傭兵や山賊紛いの豪族だったよな?仕える主家はあったのかな?これも確認しないと。
他にも沢山居るが、先ずは良く名前が挙がる奴等だ。残りは順次だな。
美濃を獲ってから仕えたのは有名処は
堀秀政に美濃3人衆。そして信長に終止符を打った明智と皆大好き竹中半兵衛だ。
あと、古田でも採ろうか?
この世界で信長の台頭対策の為に茶道を流行らす気はない。というかさせない。その対策の一環として少しずつ越前の窯工房に人が集めさせている。
ただ堺ではとっくに有名な茶器はべらぼうなお値段だし、作法なんて流派が確立されているようだ。
父上も名物と呼ばれる物を幾つか所有しているらしいし、我等が宗滴殿もとてつもなく凄い奴を持っているとか。
何だっけ?「九十九」的な名前だったのは覚えているんだけど。
これは私欲の面が強いのだが音楽や落語、お笑い、劇、絵画、スポーツを広める役割を古田にやって貰えないだろうか?
娯楽が増えてくれれば笑顔も増える事を俺は知っている。
父上がそうだった。
だから広めたいのだ。
そう決意したのだが、問題なのはどれも俺の知識は乏しい事だ。
音楽とスポーツは前世で会話のネタになる位には知識はあった。
お笑いも同程度の知識量なのだが、現代の感性に合わせたお笑いはこの時代で通じるのだろうか?
残りはお察しだ。
教養として制服を着ていた学生時代に学ぶ事はあっても、詰まらないなぁ。とか思いながら授業を受けていた。
落語なんて俺達世代では飛行機の中で聞く機会があるくらいじゃないか?多彩な趣向が存在する現代で、自発的に聴こうとする人は少数派だったと思う。
それでも落語はお笑いの原点だ。そこから派生していく物は多いだろうから、概念だけでも伝えておこう。
それと休日の導入も考えてみようか?
これは内政政策に入るかもしれないが。ただ農民は植物相手に仕事しているから強制的に休ませても怒るだけだろうからなぁ。止めとくか。
そもそも俺達武士が休んだら死んじゃうな。城下の商家や職人ぐらいしか適用されないかもしれん。
だけど人が余裕を持つことは大事だ。
それが越前朝倉から発せられる。越前が日ノ本の光になることもあるだろう。
「朝倉が支配する地は笑顔に溢れている」
新たに得るであろう支配領地の統治の手助けになれば、今はそれでいい。
...何かクサい事だな。妄想的かもしれん。ナルシズムやメランコリックって奴だっけ?人の生き死に関わってるから心に落ち着きが無くなって来たのかもしれん。
もしかしたら俺自身が余裕を欲したから、こんなことを考えたのかもしれないな。
「笑顔が増えればいい」なんて思いから文化興進をやろうと思ったけど...文化の興隆は「出来ればいいな」位で考えておこう。
やるべき事は生き残る事なのだと忘れてはいけない。
スカウトそっちのけで、また話が逸れてしまったと感じ、俺は再び筆をとる。
名人と異名を得た堀秀政は生まれてもいないだろう。織田に仕官した時期も秀政が少年と呼ばれる頃合いで、信長が中年になってからだった気がする。
美濃3人衆はそもそも美濃の有力者だ。それに今回の出兵で朝倉が勝ったら西美濃の一部を割譲するのだ。こないだろう。
明智はそもそもの話、道三の勢力に組していたんじゃなかったか?それで道三死後に美濃から逃走する。歴史通りなら越前に流れて来るんだけど俺達は道三を討とうとしているのだ。
今回の侵攻作戦が成功したら道三に近い立場の光秀も死ぬかもしれないし、仮に生き延びたとしても主家を滅ぼした相手に靡くだろうか?
竹中重治も生まれて要るのか?色んな媒体では秀吉に仕官した時も、死ぬ間際でも若い優男のイメージしかないからイマイチちゃんとした年齢が分からない。
これも調べてみよう。今の鷹瑳なら美濃について調べてるから片手間にやってくれるはずだ。
美濃についてはこれくらいかな?
あまり芳しくなかったが次を考えてみよう。
六郎のアホ回です
本当になんで信長から逆算することを思い付かなかったのだろうと本気で後悔しています。




