第23話 無茶振りキャッチボール
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1544年 5月
美濃への出兵が10月に決まった。
総大将は宗滴殿。本当なら8月に行う予定だったらしいが、真田幸綱改め真田孝綱が美濃の国人衆の調略に力を入れようと延期を提案したからだ。
勿論、新参者の意見に、総じて皆から猛反発を食らったが「成果がなければ禄を返して足軽でも農民になってでも越前で生きていく。お望みとあらば腹も切りましょう」とまで孝綱が言い放ったとか。
それでも文句を言う者もいたが総大将の宗滴殿が「武士がここまで言ったのだ。コヤツも引かぬぞ。ここで引いたらコヤツの一族は啖呵を切って逃げ出したと末代まで恥をかくことになる。やらせよ」と許可を出したらしい。
宗滴殿としては面白くないだろう。
創作かもしれんが彼の言行録に「武士は犬畜生になっても生きる」的なことがあったはずだ。ミスったら死ぬなんて言う奴は嫌いなんじゃないか?
だが総大将として死に物狂いに勝とうとしてる者を使わない手はない。
それに父上の肝煎りで主君の一文字を貰った相手だ。
だから総大将として彼の行動を許したのだろう。
そんな孝綱が行おうとしてるのは密かに頼純殿が美濃に入り、反斎藤利政勢力と合流し蜂起させる。
また、蜂起と併せて西から朝倉が、東から織田が美濃に侵攻し、三方面から斎藤利政を叩くと言ったものだった。
作戦の概要について言うは簡単だが、この作戦を成功させるために皆が忙しなく動いている。
館内の優雅を是としている日常に、男たちの大声と急ぐ足音が鳴り響く。
孝綱も必死に情報を集めている。美濃で誰を味方にするか、誰を叩くか。叩く場合はどこで攻撃するか。
美濃に入る頼純殿を旗頭にして蜂起する勢力に合わせて、いつ朝倉と織田は攻めいるのか。
蜂起勢力は信用出来るのか。
東西に長い美濃で織田との連携はどうするのか。
他にも色々な要素や問題点もあるが、孝綱を中心に処理していく。流石は謀将とも後世に名高い孝綱だ。新参で嫌われているだろうが、情報収集と調略を行う際に、問題が無い程度には譜代連中から協力を得ているらしい。
謀というものは人に対して行うものだから人心掌握はお手の物なのだろうか?もしかしたら謀将と呼ばれる人々はコミュ力が総じて高い者達なのかもしれないな。
一応見張りという名目で鷹嵯を孝綱の近くに置いているが、密かに協力させている。他の連中も見える所で足を引っ張ることは無いだろうと思いたい。
そして総大将の宗滴殿は奇襲による部隊連携について調練と軍議を行っている日々だ。
元々宗滴殿の策では織田との連携を敢えて取らずに、朝倉家だけで美濃に侵攻し利政がいる稲葉山城まで各個撃破で攻める予定だった。
また、その道中は徹底的に破壊と略奪を行う予定だったらしい。今後の美濃を誰が治めても国力を下げておく方針だったそうだ。
だが、孝綱による戦略の変更と、父上と頼純の間で取り決められた、ある約定によって方針を変えることに賛成したらしい。
俺は軍事のことなんて全くわからないから何も言えない。プロに任せるほかない。
幸いにも現在の美濃は、何度も入れ替わる守護の不在と、起こるであろう戦火により絶賛混乱中である。美濃の人たちには悪いが侵攻まで混乱したままでいて欲しい。
また、朝倉・織田に対する美濃の現在のトップは出自が不明の悪評満載者。
尾張からは虎と名高い織田信秀がかつての美濃守護の土岐頼芸を擁して、越前からは武名を轟かす宗滴殿を総大将に、同じくかつての美濃国守護の土岐頼純が反利政と合流し蜂起するのだ。
土岐の二人は救心力はないが権威はあるのだろう。これ等が一商人から国主になった利政のカリスマにどう闘うのかが勝負の肝だろう。
それと父上から頼純と交わされた約定の内容を聞かされた。
美濃の奪還が出来た暁には美濃にある大野郡と葉栗郡の一部譲渡である。
頼純も渋っていたが「混乱している国境が安定したら返す」と言って了承を得たと父上は仰っていたが、本音は違うとも言っていた。
越前の大野郡に住む景鏡派の一部の豪族を大野郡から割譲された美濃に転封させ、大野郡司である景鏡の影響力を減らすためだ。
空いた越前の土地には宗家寄りの者に加増させる。そこで善政を敷き心を掴むとのことだった。
美濃に行った者達は、一応は加増という形で美濃に転封してもう。そして美濃を頼純に返す時にはそのまま美濃及び土岐家に帰属するか、越前に帰ってくるか選択するのだが...帰ってくるにしても場所がない。
美濃に転封する際に元々住んでいた者達は無理矢理追い出されるだろう。
となれば美濃に帰属するとしても、元々住んでいた者達が頼純をバックに越前組を駆逐するだろうな。頼純としても地元の者の求心力を得るためにやらなきゃいけないし。
ただ「善政を敷く」なんて父上にとっては珍しくあやふやな物言いだ。そこを指摘すると笑いながらに言う。
「そこでお主の出番よ」
要は内政の知識出せと言うことらしい。
すげぇ無茶振り!だけど俺も色々丸投げしてたからお互い様か。
ただ齡四歳にしてネタが尽きてきたんだ。新しいものは出ない。既存の物を改造するか。それと楽市楽座をやってみるか?...イヤ辞めておこう。ノウハウもまだ力も無い俺が改革なんて無理だ。
座の奴等に良いようにあしらわれるだけだな。
うーん、なら畑の区画整理はどうだろう?
転生してから驚いた事の一つに、この時代の畑の形がある。
都会っ子だった俺は、畑というものは田舎に帰郷した際にしか身近で感じたことがない。そんな俺でも違いは分かる。テレビや新幹線で見る風景とは全くの別物。何と言うか...歪であって、キレイで無いのは確かだ。
そんな形だからか、土地の所有権が定まっていない事が多々あり、小作人自作人問わず争いもある。
作物も適当に植えてる。適当は語弊があるな。感覚でやってる節がある。
等間隔で植えて無いのを見る限り、陽当たりや風通しを余り考えてないのかもしれんな。
それと種籾の選定だ。あの塩水の入った容器で良い種籾を選定するやつ。農作業なんてやったこと無いがこういう作程があるのは知っている。その位の導入は俺でもできるだろう。
等間隔で植えるのを指導するために長さや重さ、升の一律化もついでにやろう。
それなら農民も指導を受け入れるだろう。どれだけ採れたか目に見えるし、小作人同士の土地を巡る小競り合いも無くなるだろう。税を誤魔化されることもないから。
そこら辺は農民も嬉しいはずだ。
朝倉家にとっても独立性の強い惣村に介入出来るから悪いことではないハズ。
後は内職の推奨だな。何をさせるか決めてないが、内職の成果物を国で買い取れば...いや朝倉家で買い取れば直接朝倉家に忠誠が向くだろう。
何だ。少し考えただけでも出来そうなことは沢山あるじゃないか。
ネタ切れとは言わずにもっと頭を絞りだそう。思い出すものもあるはずだ。
曖昧なものでもどうにか形になる物もあったんだ。それをまた父上に無茶を振り返してもいい。
新しく入ってきた、俺の推挙で入ってきた孝綱も死に物狂いなんだ。
俺もやってやろう。
朝倉家公式チートの宗滴がアップを始めたようです。




