第22話 父上は違いがわかる男
誤字、脱字があれば御指摘お願いします。
1544年 3月
今日は父上と朝から一緒に行動している。
なんといってもそう、一族郎党ごと呼び寄せた真田幸隆が挨拶に来るからだ。
彼等は正確に言えば89人。
そして予め彼等を受け入れる土地の準備も出来ている。坂井郡南郡に1000石だ。それと手付けの一千貫。
これは破格だろう。父上も気前よく出してくれたのは工藤兄弟の活躍を聞いて俺の人物占いを信じる様になったのかな?
藤吉郎は評価依然に見向きもされないけどね。
その工藤兄弟は300石追加されて800石になった。彼等にとっては喜ばしい事なんだけど、只でさえ少ない一族で土地を治めていたのだ。
今のままでは新たに加増された土地を治めることが出来ないらしい。兄弟二人も宗滴殿の元で与力として過ごしている状況だ。
そのようなことから流浪中の5年間でバラバラになった親族を呼び戻しているが、それまでは朝倉家から代官を派遣することになった。その代表が魚住景固だ。
魚住景固は温和で物事をハッキリと言う。悪く言えば空気が読めない。良く言えば官吏にピッタリな人間なのだ。そう言う所を父上は気に入っている。
そして、幸か不幸かこの加増された土地には難民による開拓村を作る予定で、モデルケースとなる。難しい仕事だが成功すれば計画を立てた俺の評価もあがる。本当に頑張ってくれ!
難民を受け入れることに関しては父上も精力的だった。人が国力になることは分かっているし、最近は国内に増えた銭で過剰になる程に食糧を購入している。
その食糧を領内の農村に配り、飢餓へ対策している。
また国境の農村には難民を受け入れたら難民と交換に褒賞金を与えるようにしている。その難民は新たに開墾されてない直轄領の土地に連れていかれ、開拓と養鶏に従事することになっている。
援助する食糧の中には俺の作ったドライフルーツもある。実験も兼ねて配布量は一定だ。どのくらいの者が、どの様な症状が出るかも報告させている。
官吏達の中には毒味に眉を潜める者もいたが越前と子孫の為と言って父上が納得させた。彼等も地元が大事なのだ。
保存食が成功したら冬を越せる者が多くなる。
人を騙して命を弄ぶから良い顔しないのは分かる。
だが日本海に面する土地の冬の厳しさを、ボンボンの俺より彼等の方が知っているのだから自ずとやるだろう。
唯一幸いな事にまだ、急激な体調変化や明らかな症状が報告されていないということだ。このまま上手くいって欲しい。今更過ぎるが俺だって好んで実験している訳じゃないんだから。
ちなみに加賀方面からの難民は一切入れさせない。
例外は子供だけの場合のみ。理由は勿論、加賀の一向宗を持ち込ませないためだ。
そして孤児は大人に混じって働かされる。食べ物も貰えるがキツいだろうな。それでも食べ物が無い加賀に居るよりましだろう。
暗い話が多かったが、今は真田のことだ。
俺が工藤兄弟より真田を評価していると鷹瑳から聞いたからこの待遇だ。ただ元々は信濃では有名な豪族だったから、父上も調査した上でこの待遇にしたのかもしれない。
部屋に入ると巨体の、タコ顔の中年男がいた。少しやつれているか?それに着ているものもあまり良くないな。どうやら彼が真田幸隆らしい。
父上が入ってくるなり平伏して動かない。
父上が上座に座り
「越前守護の越前朝倉家当主朝倉弾正孝景である」
「信濃の小県の出身。真田源太左衛門幸綱に御座います」
とお互いに挨拶をしても続きを喋らない。返答しないというより待っているのだろう。
と、いうかアレ?ちょっ、まてまて待てぇい!弾正名乗っていないし幸隆じゃない?!
...いや、正式に弾正と名乗れる父上と違い、幸綱のソレは僭称だったのだろう。父上は当主に就任して数年して弾正を叙任している。そんな父上の前に自称する訳にはいかないか。うん。
おそらく隆の文字は後年に変えたのだろう。鷹瑳から調査報告を聞いた時には真田某だけだったから俺も気付かなかったわ。
.....似た名前の近親じゃないよね?
ま、まぁ何にせよ今日は父上もいる。仮に別人でも登用可否は父上が決めるのだ。使えるなら雇う、それだけだろう。
「よう参られた真田殿。頭を上げてくれ。御主らが来てくれたことは嬉しい。先ずは話そう」
「はっ!では、我等をお招き頂き有り難う御座います。この幸綱、感謝に耐えませぬ」
先程は顔をチラリとしか見えなかったが改めて見ると確かにやつれている。ただギラツいた大きな目が怖い。
「良い良い、もっと楽にせよ。で、だ。当家に仕官してくれるか?御主らのことは粗方調べたが武勇に秀でるそうな?是非とも来て欲しい」
早速だな父上。話そうって言ったのにジャブが無くストレートだよ。激情家の多いこの時代にこんな褒め方は嬉しいだろうな。
「はい、この身を挺して仕えさせて頂きとうございます」
だが、そんなストレートを難無に捌く幸綱。
「先ずは仕度金に一千貫、領地はここから北にある坂井郡に千石出そう」
「...真に御座いますか?」
流石に反応する幸綱。浪人一党には破格の待遇だからな。
「ああ御主を買った。眼が良いわ。家族を守る男の眼よ!文句も多いだろうがそれをはね除けて根を下ろせ!朝倉に生きて、朝倉で死ね!」
喋りながらヒートアップする父上。
またまた熱い御言葉を。俺も目頭が熱くなる。
「...有り難う御座います」
表情を変えず、一言だけ。なれど顔を真っ赤にしながら震え、泣いている。そして頭を下げた。
「また儂の一文字をやる孝綱と今後は名乗ることを許す!励めよ!」
そう言って最後に大きなサプライズを残した父上は護衛達を連れて先に退出した。幸綱改めて孝綱はうずくまったままだ。
俺も気まずいのでこの流れに乗って退出した。
孝綱との会談が終わった父上は嬉しそうだ。
優秀そうな武将が朝倉家に来てくれて嬉しいのだろう。史実でも希代の軍略家としてバッチシ残ってるし。
父上が認めたのなら彼が幸隆に違いない。
そして浮かれ顔から一転、何か決意するような顔をしている。
「六郎よ。まずは孝綱を連れて来てくれて感謝する。アレは良い者だ」
おいおい、彼は壺じゃないぞ。
「儂の甥が昨年の8月に国を追われ、我等を頼って来たのを覚えて居るだろう?」
「はい、彼が父上に助力を願い出てるのも知っています」
「うむ、儂はそれを受けようと思っとる」
そう、美濃国守護だった土岐頼純が叔父の土岐頼芸と対立。負けて母の実家である越前に落ち延びた。
その頼芸だが、因果応報か彼も美濃を追い出されて尾張に落ち延びていた。実行犯は頼芸の懐刀であった斉藤利政という男らしい。
この男の話を聞いた時、まさしく戦国武将だと思った。
利政は元は油売りで、その行商の中に自分を売り込んで長井某の部下になったらしい。
その後は頼芸に近付き信頼を得て、拾い上げてくれた長井某を謀殺し自分が長井性を名乗る。
後に美濃守護代の斉藤利良が死ぬと、どうやったかは知らないが、その後を継ぎ斉藤利政と名乗るようになった。
......というか、これは美濃の蝮ですわ。
そして父上は尾張の織田信秀と共闘して美濃を攻めるらしい...虎もいるようだ。
多分道三と名乗ってないが経歴で確信する。だとしたら年代的に子の義龍も生まれているし、朝倉家の宿敵も元気にウツケっているのだろう。
そう考えると、何故だろうか?体が熱を帯び始める。
前世の俺は土岐家について詳しく無かった。
覚えているのは道三に国を乗っ取られる一族。齋藤義龍が国を割る親子喧嘩を決意する要因、明智光秀が本能寺の変関連で何か聞いたことがあっただけだ。
それらと今、関わってきている。そしてここから有名な時代に進んで行くのだろう。
だから熱くなってきたのだろう。
これまでも秀吉を筆頭に宗滴、義景(仮)、先程は幸隆改め孝綱に、様々な有名人に出会って来たが、感動したのは秀吉と宗滴だけだ。藤吉郎は半農の時から色んな媒体で有名だし、宗滴殿は実績があるからな。
他は良くも悪くもまだこれからだ。
例外が父上で、史実では良く知らなかったが 朝倉家で過ごしている内に彼も偉大な戦国大名なのだと確信するに至った。
朝倉の中で一番有名になるであろう兄上は、実際のところ優秀な方なので、これこそ実感がない。孝綱や祐長に至ってはまだ名を挙げてない。その人達は武将というよりは、一個人としての感覚が俺の中では強いのだ。
そんな中でTHE・戦国大名の代名詞である道三と朝倉家が闘うのだ。高揚感というのだろうか?それとも恐怖か?体の芯が熱い。
そんな心と体が元気になっている俺を見て、フッと笑いながら頭を撫でてくる父上。
「何だ?お主も急に良い眼をするなぁ。流石儂の子よ」
何やら褒められたのか?
なら俺の興奮は良いことみたいだな。
尊敬する父上に褒められたのだから。
嬉しくなった俺は、そのままじゃれつく様に父上の後を追っていった。
魚住景定の補助として藤吉郎が本当は出てくる予定でした。
それと朝倉は公家との繋がりが深く、孝景は官位を正式に頂戴してることにしました。そこら辺の資料があれば嬉しいです。
また鷹瑳が報告し忘れてたことの二つ目の幸隆が幸綱であることです。




