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名族朝倉家に栄光あれ  作者: マーマリアン
良き結末とその覚悟
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第15話 鷹瑳の重い屈託と、幼児に生えた二枚舌

鷹瑳だって人間なんだ



俺は今すごいテンションだ。

内藤昌豊に加えて秀吉も手に入る!

墨俣の一夜城を初め、金ヶ崎の撤退戦、今浜の発展...創作も運もあるがだろうが確実に実力もある。


武勇に内政なんでも御座れ。

他にも有名な成功例が沢山あるMr.立志伝。

彼が来るのを知って小躍りしなかった俺を誉めてやりたい。



地域によってスカウトする人数に変わりはあっても、どの地域もスカウトの人数は殆ど変わらないと差配した鷹瑳は言っていた。

足跡を辿りやすい浪人の工藤や真田。

小勢力ながら家のある伊賀甲賀の忍び達。

そして名もなき農民。


捜索の苦労は一番最後が段違いだからだ。


その点を顧みると秀吉のためだけに尾張に派遣したのは狂気のギャンブルである。

いや、本当に良く見付けてくれたなぁ。マジ感謝。



自分で言うのもあれだけど良くあの情報で辿り着いてくれたよ。父親の名前に「弥」がつくとか猿顔とか変な知識だったのにさ。

父親の配下の忍は諜報能力が良いことがわかったよ。



今回工作員の派遣をお願いしたのは甲斐と伊賀、甲賀そして尾張だ。伊賀、甲賀は滝川一益を初め総じて空振りだったが甲斐は半々、尾張は成功だった。


スカウトマン人数の関係で地域を絞られたのは悔しかったが、尾張への秀吉の一点張りが成功したので気にしない。




俺が今回の結果に満足感を覚えながら思案していると、少し上擦った声で鷹瑳が話しかけてきた。

「六郎様、その占いで沢山の物事を御当てになるのは誠に素晴らしいことだと存じます」


鷹瑳はどうしたんだ?急に真面目モードだ。

顔には出てないが秀吉フィーバー中の俺は喜びに満ちている。俺に優しい彼が水を差すかのように物申すのは珍しい。



一度呼吸を整えるかのように深く息を吸い込んで、俺を見据える。

「真田も工藤も他の面々も御名前や所在、現状を悉く御当てになるのは神の所業に等しい。...となれば彼等が朝倉家に来て活躍するのも本当なのでしょう」


鷹瑳は本当にどうしたんだ?


「しかしながら藤吉郎なる半農の子供を当家に迎え入れるのは認めたくありません」

否定の言葉だった。

だがそこに怒りに震えている様子はない。

只、動かない右腕を彼は見ている。




おそらくだが、おそらく鷹瑳は...

今は僧であるが、武将としての鷹瑳が我慢出来ないのだろう。今までの結果から俺の神通力(笑)が本物だと確信している。


そしてそれに選ばれた秀吉に対して悔しいのだろう。

工藤や真田はともかく、秀吉は力も実績も無いほぼ農民の子。

対して、腕が動かなくてもずっと努力してきた自分はなんなのだろうと。

名門の生まれでそのハンデに心無い事を言う者もいたのかもしれない。


考えてみれば鷹瑳もまだ20になったばかりだ。前世の俺よりしっかりしているから、鷹瑳は感情を制御出来る大人だと思ってた。


これは鷹瑳の心情を見抜けなかった俺の原因だが、譲歩する訳にはいかないんだ...


...ここは俺も鬼になろう...



「鷹瑳、後ろを向け!」

今の俺では顔を見られると嘘がバレる。


スッと顔を下げながら体を後ろに向ける鷹瑳。

「良いか?俺は藤吉郎なるものを侍にする!」

目の前の大きな体が震えた気がする。

けれども気にせず一気に喋る!


「だが戦場には連れて行かん!俺の新たな農業改革に当てたいのだ!無論上に立つ者について学ばせるが、それでよいな?」




軋轢は俺が想像するより大きいのかもしれん。

いつも温厚な鷹瑳だってこうなんだ。コレが知れ渡れば他の普代連中からすると俺に名門の矜持が無いのかと野次りたくなるだろう。石転が無ければ皆にウツケ扱いされたかもしれない。

最悪この歴史の、後の文献には兄上が一人っ子になっているかもしれないのだ。


だが秀吉がここに居れば金ヶ崎で信長を殺せるのかもしれないし、秀吉以外の柴田や丹羽等の有力な武将が殿をして、彼等を消すことも出来るのかもしれない。そもそも信長の美濃攻略が出来ない、あるいは遅れるのかもしれない。

其れだけ多くのチャンスを得ることが出来るのだ。



なので秀吉には内政に全振りさせる―――と今は思わせておこう。





折角手に入れた秀吉を内政のみで終わらせるものか。


まぁ勿論、何でも屋の秀吉には農業改革にも携わせてる気ではいる。


農業革命の一端と言われるノーフォーク農業とかさ。


色々と問題も多いだろう。

俺はノーフォーク農業についてはちゃんと理解していない。マメ科の植物による窒素固定によって土壌を良くする。そして株種や小麦などをローテーションさせる。それだけだ。

何をいつ植えるのなんて農業したことない俺は知らないし、どういうローテーションかも分からん。かなり無責任だ。

やるなら俺より半農の秀吉の方が遥かに向いてるだろう。



それに土地の豪族も上からの介入を拒否する場合もある。農民も急な改革なんて困惑するし、気に入らなければ激怒するだろう。

現代でも俺の職場で、大幅な仕様変更に対して皆がキレキレだった。

農業の結果なんて年単位でいつ出るかわからない。大博打も良いとこだ。

だからこそ秀吉にはぴったりだと思う。元農民で人タラシと呼ばれるくらいコミュ力があるのだから。上と下の擦り合わせもやってくれるハズ。




本当ならこれは父上から直轄地を一部借りて試験的にやる予定だった。実行するのも功績も鷹瑳に丸投げする予定だった。

なんだかんだ実直な鷹瑳もある意味適任だとも思ってたからだ。


だがそれも何年も先の話。今の鷹瑳は俺の教育と秘書業の兼業で忙しいのだから。


そして今、彼はそのチャンスを自分から棒に振った。




俺の大切な人材に成り下がったんだ。



「だがな!鷹瑳!俺の側近であるお前が要らぬ嫉妬を持つな。俺の右腕がそんな事で腐るな!お前の右腕は確かにダメかもしれん!だが俺の右腕はこんなものなのか?」


煽る形になったがおそらく大丈夫だろう。押し殺しているが鷹瑳が泣いているのが分かる。



まぁ鷹瑳の爆発は良かったのかもしれん。時間の掛かる計画が早まったことと、鷹瑳のコンプレックスを吐き出させたことだ。鷹瑳も30近くになると色々と悟るだろう。僧侶的な意味じゃなくサラリーマン的な意味で。


「お前は俺を認めているのだろう?それは俺も同じだ!右腕がここで朽ちるな!腕が動かない辛さを知ってるお前だろう。俺にも同じ辛さを与えるのか?」



鷹瑳は後ろを向いたまま頭を下げた。嗚咽も隠せない。



勿論、秀吉がこれで功績を挙げたら戦場に連れていく。文句は言う奴もいるだろうが兵糧管理の様な目立たない事から始めさせ、ゆっくり主戦場にシフトさせる。

秀吉は結果で周りを黙らせた男だ。朝倉家でもやってくれるだろう。俺もレールは用意してやる。


こんな考えがあるから後ろを向かせた。気遣うだけじゃない。



明日にまた続きを話すと言って俺は部屋を後にした。



この時の鷹瑳は冷静じゃないので、細かいことを報告し忘れています。別に大きなことにはなりませんが、少し話に関わります。

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