第14話 大物は最後に?
1542年 12月
スカウト要員として各地に送ったのは、朝倉家の忍や一乗谷に出入りする行商人たちである。
探し人は全国ではなく特定の地域を重点的に絞ることにした。
父上達が認めたとはいえ乗り気ではないことからスカウトマンの人数が少ないことと、浪人故に見付からないことも視野に入れているからだ。
やっぱり他家の者を引き抜き出来ないのが痛い。
出来れば出世してない内に厚待遇等で、さらにいうなら織田家からバンバン引き抜いていたのに。
そんな単純にいかないだろうが、これが上手くいってたら織田を抜けて朝倉に来た奴は織田家が攻めてきた時は死ぬもの狂いで戦ってくれるだろうな。
元サヤに戻ろうにもそれは裏切って裏切るのだから、投降しても日向を見れないのだから。
まぁ仮定の話は置いておこう。
「まずは信濃の真田幸隆、そして弾正を名のる者でしたな」
鷹瑳に呼ばれ報告を受けた。かなりドキドキする。
彼に関しては結構覚えてる。子孫が有能でテレビや映画色んな媒体でとにかく人気者。勿論息子達も猛将、智謀揃いだ。また戦国の有能弾正さんシリーズの一人でもある。
そんな彼は今の時期、武田・村上の信濃侵攻により一族で逃亡していた。正確な時期は分からないが土地を奪われてからの武田に帰参するのは数年の間だったハズだ。
彼の代名詞である砥石崩れその前にゲットしたい。
「信濃で真田は有力な一族だったそうで、その為どこに逃げ込んだかは直ぐにわかったそうです」
おっ!それでそれで?
「一族朗党を引き連れて、上野の長野業正を頼ったようで。そこで庇護を受けているとのこと。接触した者が言うには少し考えさせて欲しい。と」
うむむ、これは断るための常套句?
分からん。だか是非来てほしい。
「そうか、真田は子孫共々優秀な者と出た。そんな彼等は後々も朝倉家の為になるだろう。俺に録の采配を決めることは出来んが優遇して手に入れたい。これは父上にもお願いしておこう」
鷹瑳が驚く顔をしている。そこまで買うのかと。そんな所だろうか?まぁ子孫が優秀なのは嘘じゃない。三男なんて金の鶏で金の卵を生む。戦国界のエースだ。
「次に甲斐の工藤某または内藤某。父親を前当主に殺されて一族で逃亡しているとのことでしたな。今の棟梁は工藤昌祐と言う名でした」
俺の狙いは内藤昌豊。
工藤佑長と言う名が改名前の名だ。今の当主は名を聞く限り兄が担っているようだ。元々は工藤という名で内藤に変えたんだよな。ただ、改名のタイミングは分からなかったが今は工藤だったようだ。
彼も現在は一族で流浪の身となっていたハズだ。親が信虎の怒りに触れ殺されて、甲斐を離れた。
そんな彼の武田帰属後の活躍は伊達じゃなく、信玄の戦殆どに出て、軒並み活躍している。武田家の出世レースには途中参加だが武田四天王の名を手に入れた。他の3人が譜代のことを考えれば彼の凄さがわかるだろう。
実際俺も好きだった。
「足取りを探すのは困難でしたが工藤某は現在、伊豆におりました」
北条を頼ったのか。あれだけ優秀なのに現在に名を聞かないのは何故だ?
北条は戦場に困ることはないはずなのに。名を上げないのは何故かと聞く。
「どうやら捨て扶持で飼い殺しに近い扱いのようです。北条の信用がない御様子で」
なるほどな。北条は疑っているのかもしれん。武田の策略ではないかと。信玄...今は晴信か。まぁ信玄でいいや。彼の謀将っぷりはまだ世に響いていないが現段階でも有能と評価はされていたな。石転製作会議の時に年の離れた従弟の景隆が言っていたのを覚えてる。
「北条はまだ受け入れられないのだろう。...それで結果は?」
「一族を受け入れてくれるなら越前に向かうとのことでした」
よっしゃ!ッッ よっしゃ!!
武田ガチャのスーパーレアが当たったぜ!
「でかした!名を挙げる場を与えるからと呼んでまいれ!」
その嬉しさについ興奮気味に返事を返してしまった。
声がデカいな俺。そこら辺は父上譲りかもしれん。鷹瑳もそんな俺を見て笑顔で返す。
「わかりました。では使者を送ります。ただ今は雪により伊豆までは雪解けを待たないといけないでしょう」
ちくしょう。もどかしいな!
焦らされてる感じだ。
「ではそのように頼む」
こればかりは仕方がない。春まで待とう。
「では次ですが」と、鷹瑳が切り替える。
「甲賀の滝川一族の一益なる者。年齢は15位から20前半」
続いては滝川一益。細かい出自はわからないが甲賀忍者との説もあり、国を離れて織田家に仕官した。彼は浪人だったのか自家を出奔したのかは分からない。
なのでそこに賭けてみた。
今が正確に西暦何年かも分からないし、彼の年齢なんて知らないが、死んだのは信長が本能寺で死んで数年後だったのは覚えている。
とりあえず今は人海戦術として10代半ばから20代前半の滝川一族を片っ端から当たってみた。
それに信長の有力武将の一人だ。最悪朝倉家で飼い殺しになったとしても敵の戦力は下がるのだ。
「1人ほど該当しましたが、どうやら彼の一族は六角家に仕えているようです。そして彼の者も六角家に仕えていました」
なのでお声掛けはしておりません。と鷹瑳は言う。
残念でならない。仕官していたのか。だがいつか出奔するのは確かだ。そして尾張に向かう。
しかし実際に甲賀いて、いつかはフリーになる可能性が物凄く高いのだ。越前に向かうよう誘導出来ないだろうか?
まぁそこら辺の話は後だ。
他にも誘ったやつらが山程いるんだからな。
へへ、まぁ見てなって。
そんなふうに高を括ってた時期が、俺にもありました――。
そこからは爆死報告の連続である。
俺が狙ったのは甲賀忍、伊賀忍だったが軒並みダメだった。
伊賀崎道順を筆頭に百地、服部、望月、藤林など伊賀甲賀問わず有名処の忍は大抵が六角家に仕えていたからだ。
そして鷹瑳は淡々と注釈も入れず流していく。
どうやら俺が思ってた以上に忍びの者達への評価が低いようだ...
父上も「来るものは大抵が六角の間者だろう」と不機嫌そうに言っていたから、来たとしても無理にでも追い返していたかもしれない。
これは滝川一益へのアフターケアも真剣にやらなければ...
ただ伊賀や甲賀は貧窮地域だからか捜索中に接触した者達の感触はどれも良かったらしい。本当は彼等も越前に行きたいと思っていて、誘えばホイホ「これも策略かも知れませんよ」...と鷹瑳が釘を刺す。
「そして...最後の者ですが、いの一番に来ると言ってきたそうです」
その報告に俺は歓喜した。
俺が今回のスカウトをお願いした者の中で、一番結果が気になった人物だからだ。
鷹瑳はその報告に良い顔をしていないが俺は絶頂中だ!
「尾張の中村と名の着く場所に住み、父親に「弥」の字が入る。その父は足軽に近い身分だが農民に近い生活。猿顔で名字は不明であるとしたら木下。名は藤吉郎ないし日吉」
織田家ガチャのウルトラレアを引けたのだ。




