第13話 やはり内政は時間かかる
1542年12月
赤面退室した日から2ヶ月近く経った。
年の瀬も近くスッカリ寒さを感じるようになった。最も、薄着なので凍てつく寒さが現代よりも肌によく染みる。最近寝るときは母上に抱きつくようにして眠っている。
イヤね、生まれてからいつも一緒に寝てるんだけど、寒い日は母上が湯タンポ代わりに抱き締めてくるのよ。女性に抱きつかれて悪い気はしないし、母親と思えば尚更だ。
実際俺も寒さは凌げるしね。
兄上も以前は同じ部屋で寝ていたのだが最近一人部屋を貰ったので今は別々だ。俺が寂しいと言うと頭を撫でて嬉しがるが、俺としては目の前で揺れ動く兄上のふくよかなお腹と離れて寂しい。
暖かかったからなぁ。母上は着重ねして眠るため俺はその中に入るようにして眠る。母上自体はあまり暖かくはないので着重ねは息苦しいこともあった。その点兄上は素で暖かいので抱きつくだけでよかった。
あぁ、さようなら俺の生湯タンポ。
赤面からの後日にまた四人で話し合った。俺が浪人を雇う禄の金策として提示したのはトランプとキノコ栽培、そして干し柿の安定生産だ。
これらは別に出し惜しみしていた訳じゃない。
俺は生まれてこの方一乗谷を出たことがない。と言うより城の外に出ることさえ数えられるくらいだ。外に出れても誰かのオマケで出る事が殆どで、俺個人が出るのは母上を筆頭に止められている。
特に石鹸造りを始めたあの日から護衛の目も厳しくなった。
小氷河期である戦国時代では11月には雪が降る。
城下町の舗装されている道ならいざ知らず山道を歩くことは出来なかった。それに俺はまだ3歳児、寒空の下で風邪を引いては命に関わるから俺自身も積極的に出ようとはしなかった。
だけどキノコ栽培となると俺も外に出る必要がある。人伝えに指示を出すより、初め位は自身が現場に行かないといかないだろう。
それに...俺のキノコ栽培の知識についてはあやふやな部分が多い。
簡単に言えば「高湿な場所で、それぞれの適した切り株や丸太に栽培したいキノコ栽培胞子を擦り付ける」くらいだ。
なんといっても菌類は目に見えないし、適切な湿度がどの位なのか俺しか分からないだろう。
計画的に栽培するとしたら現地は見ていた方がいいだろう。
特に湿度管理については不安があったので事あるごとに自身が視察しなければならないと思っていた。それも機密保持のため人気の無いところに。そうなると山の深い場所となるので外出するのは確実に認められないだろう。
上記の知識面と外出面でキノコ栽培は遠のいていたのだ。
トランプに関しては和紙にするか木札にするか決まらなかったのと、一度試作品として木札で作って貰ったが俺の小さな手では5枚以上持つ事が難しく、研究は後回しになっていた。
干し柿は美濃で昔から生産されている。俺はあまり詳しく無いので情報を集めることに力を入れた。そこは鷹瑳と孫三郎がやってくれるのとのことだったので俺は待つだけだった。
そんな状況だが金策として色々作らなきゃ武将の登用が出来ない。問題が多くてもやらなきゃならない。
キノコ栽培については父上が認めたので渋々の母上の命の元、護衛が10人以上つけることを条件に外に出られるようになった。俺はおぶられて移動する形になる。護衛の全員が朝倉に仕える富田勢源から剣富田流の手解きを受けている。山の中で子供の俺を運ぶなんて彼らにとっては朝飯前だった。実際に皆の顔に余裕があったし。
キノコ栽培についてだが手始めに栽培専用の小屋を建てた。この中に切目を入れた丸太を運び、キノコ胞子が多いであろう傘の部分を付着させていく。今はあばら家だが徐々に補強していく予定だ。
それと栽培を始めるに至って一栢僧侶からアドバイスを頂いたのだが、キノコによって自生しやすい木がそれぞれあるとのこと。共生の相性があるのだろうか?なので椎茸が良く生えると言われる椚木の木をいくつか切り落とし、丸太に傷を付けて椎茸の上部を付着させておいた。
他のキノコも良く自生すると言われる木で同様のことをしておいた。
以上が俺の拙い知識を総動員して行ったことだが、これだけ上手くいくのだろうか?それでもやるだけやった。これも父上達に今後も研究して貰おう。
トランプは和紙で作ることになった。ついでにカルタも平行している。
1~10の下位のは印刷で製造することになったが、上位の数字やカルタ絵柄は手書きになることになった。どうやら避難してきて暇になった貴族やその子女にやらせるとのこと。貴族の食い扶持にさせると父上が言っていた。思わぬ横槍だったが父上は雇う浪人の禄には影響はさせないと言質を頂いた。
干し柿に関しては商品としてと言うより朝倉家の保存食として父上が買い取る形になった。
鷹瑳と孫三郎が集めた情報から干し柿の製造を始めたというよりこの二人が主体となって進めてくれている。流石に孫三郎は補助としてだが。それでも有難い。
それとミカンやリンゴ、杏子のドライフルーツにもチャレンジする。この時代砂糖は高価だ。使わない方針で進めて行こう。天干しと直火を避けて水分を飛ばせば出来るはず。
ただ、安全性が分からない。保存期間が砂糖が使用していない分、どれだけ水分が飛んだか調べないと行けない。
少々外道だが貧民に食べさせて実験してみるか。彼らで保存期間を確めてみよう。
運が良ければ彼等も生を繋ぐことが出来るし...
...自分の罪悪感を無理矢理押し込んで、貧民達とWIN-WINの関係になるだろうと勝手に思うことにした。
実験は長期になるのでこれは製品化されるまでは時間がかかる。
結局は今から商品化作業が出来る物はトランプのみで、残りは時間が掛かるものばかりだった。これ等を四年以内製品化して利益が出るようにしなければならない。気が重いが成果を出す他ない。
そんな気込んでる俺に鷹瑳がやって来た。
浪人達に使いを出した者達が報告しに来たと。




