第12話 崖っぷちスカウト
1542年10月
父上達は俺の青田買い計画について渋い顔をしている。
今回ばかりは仕方がないと思う。家に縁も所縁もない者達を雇おうとするのだから。俺のやることに常に賛成に回っていた鷹瑳でさえ消極的だ。
何と言ってもこの時代の人は余所者を嫌う。安定した生活を送るには地元、延いては家から離れずに親の家業を受け継ぐことが一番である。現代では独り立ちしろとよく言われるが、乱世ではそれこそ命懸けである。
一所懸命もしくは一生懸命の言葉はまさしく歴史から紡がれた言葉だと思う。
若くから新たな土地で開墾しようにも現代のように農業機械なんて無く、己の身一つで耕さなければならない。荒れた土地の草木や岩石を除去して、土を作物を育てるに適した物に変える。
例え年月かけて開墾出来たとしても、その途中で戦に巻き込まれたり、災害に襲われれば意味がないし、支配者からの理不尽な徴収も有り得る。
降り注ぐ災難によって実りが失われても誰かが補償してくれるわけでもない。
なら先祖代々から手入れをしてきた受け継がれる土地を護って行くのが正道だろう。
そんな先祖代々からの土地に、何も持たずにやってくる者に対して穿た目で見るのも当然である。
しかめっ面の父上が俺に話す。
「六郎よ。儂が良く思ってないのはわかるな」
そうだろうな。だが折れちゃいけない。
「はい。父上が危惧していることも分かりますが勇の者も、智謀の者も取り入れるは朝倉の為に」
「...一応今回も聞いておくが、今回の知恵は何処から入れてきた?」
「私の占いに御座います」
いつもの回答にいつもの顔をする父上。
「...ならば条件がある。まず仕える主君が居ないこと。引き抜きは要らぬ諍いが元よ。それに他家の紐付きなぞ目も当てられん」
これも道理であるし、今の朝倉家には見られるといけない物がちょくちょくある。
「それともう1つ」
「何でしょうか?」
「六郎が新たに銭を稼げる物を出すのだ。そこから稼いだ銭から録を出す。掛かった費用もそこから差し引く。そうだのぅ。今後四年で利益が足りぬ時はお主の連れてきた者を放逐とする!」
これはキツいな。事業を立ち上げて4年以内に成功させなければならない。
だかやらなくては。止まったら死んでしまう。
「主の占いから出た結果なら、お主の力で家臣を護ってみせよ!」
厳つい顔になった父上が言う。俺の顔も引き締まる。腹も、もう括った。
「だがな、六郎。儂らは主が出来ると信じておるぞ!」
それなのに、ここでそんなセリフを言われると嬉しくなっちゃうじゃないか。
腹の中から体中が熱くなる。顔は赤くなっているのかもしれない。
これは一度出直してから落ち着こう。
皆に笑われている気がしたが相手にする程落ち着いてる訳でもない。寧ろ何を言ってもからかわれる気がする。
ダメだ、本当に出直そう。この程度の期待や茶化しなんて現代では平気だったはずなのに...。何故か叫びたい、爆発したい気持ちが溢れてくるのだ。本当に心や理性も幼くなっているのかもしれない。
そう考えると、無礼な振る舞いであるが途中退席の旨を伝えて出ていくことにした。今の自分は頭が上手く働かないからだ。この振る舞いに対して大人組の三人はニヤケ面で見ていて、咎める様子はないらしい。
「この青田買い計画は鷹瑳とお主で進めていくように」と背中から聞こえたがそれに返事をすること無く頭を下げて部屋を出た。




