第10話 大陸の知識
1542年9月
鶏会議のその日の内に、城下に住まう高名な僧侶、谷野一栢を召集し、鶏が生薬になることを確認することが出来た。
たまに館で見掛けるこのしわくちゃの御老人と面と向かって話すのは初めてだが、どの様な経歴かは聞き及んでいた。
僧籍に身を置きながらも易(占い)で名を馳せ、さらには一度海を渡って明で医学を学んだこともあるそうだ。帰国した後は京で教鞭を振るったり著名人と交流を深めていた処を父上が是非にとスカウトしたらしい。
京に長年住んでいた事もあって京の情勢に詳しく、伝も多い。その為現在は、父上の相談相手として一乗谷城下に滞在しているが常時は医学校兼お寺を営んでいる。
この人は父上のお眼鏡に叶っただけあって、話が巧かったし、生き物を家畜にすることにも反対はしなかった。人の為なら良いのではないか?というスタンスで余り気にはしてなかった。
さらに大義名分として生薬利用を思い付いた俺者が俺だと知ると大層褒めてくれた。
それに気を良くした父上が「コヤツの易は大したモノで、幼いながらも優る者は居ないでしょうな!」なんて上機嫌で宣うからヒヤッとしたよ。
本職にそんなこと言わないで!恥ずかしいから!
けれど占いの権威にも関わらず俺のなんちゃって占いを「そういうものもあるのでしょうなぁ」と否定せずに優しい笑顔で認めてくれた。
この人凄い良い人だ!!
そのしわくちゃの笑顔も凄くいい!
現代でも見たことも無い聖人に嬉しくなった俺はついでとばかりに鹿も熊も猪について伺ったら、それらも生薬として使われていると教えて貰った。
というより大抵の生き物は生薬利用されるらしい。博識の一栢僧侶は中々の人物だが、色々試した中国人も中々だよなぁ...
...ま、まぁともかくこれで鶏肉が食べられる!生薬を理由に家畜化出来るんだ。
この時代の食事はお米ドーン!おかずチョン。だ。
擬音で表現して申し訳ないがご飯の量とオカズがあっていないのだ。大盛りのご飯に野菜が入った味噌汁そして小魚が数匹が今日の夕食だった。アンバランス過ぎると思うしイマイチ味気ない。
大名である父上も食膳は同じ。コレが上流階級の食事になるんだと理解した日は物凄く落ち込んだよ...
そんな事もあってさらに食事事情を改善していきたいが、食糧供給の問題から先になるだろう。飢えを無くしてからでも質は上げられる。
災害に強い植物としてカボチャやジャガイモの栽培を思い付いたがまだ存在して無いらしい。確か南蛮人が運んで来るはずだからまだ日本にないのだろう。
欲を言えば胡椒と唐辛子が欲しい。
塩味だけじゃ物足りない。味にレパートリーを増やしたいが胡椒はこの時代、「黒い黄金」なんて格好良い名前で呼ばれる程に高いんだよな?小指で摘まんで慎重に振り掛けてたってバトル漫画で読んだよ。
転生前に自炊で考えも無しに、塩胡椒が入った容器をドバドバ振っていた自分が羨ましく思えてくる。
高いならどうにかしてこれも栽培出来ないだろうか?
栽培で思い出したが木綿の栽培も始めることになった。利用方法や三河に自生していることを父上に伝えると使いの者が飛んで行った。暖かい物を着ないと子供は死んでしまうからな。...
って!
俺が今まさにそうじゃないか!幼児だよ俺!
これには即急に力を入れてもらわなくては!
それと陶器類の向上の為に朝鮮から職人を誘致してもらおう。
信長の資金力の1つに茶器の価値を高めたことがある。これにより手柄を立てた家臣に茶椀1つで済ますことも出来た。御茶碗を城と同等の価値にするなんてやはりあの偉人は洒落にならない。
その対策で彼が台頭する前に、質の良い茶器を世間に流通させて少しでも価値を下げさせることが俺の狙いだ。茶器の値上がりを抑える事で織田の資金力を低下させれれば御の字だが、今は朝倉家の富国の為だ。
そして最後に、火薬の作り方を明から学びたい。
元の頃からあの国では火薬兵器が使われているのだ。硝石の作り方も採り方も知っているだろう。俺の曖昧な知識ではなく実地の人が作れるならそこから教わったほうが確実だ。
ただなぁ、火薬は鉄砲があって価値が出る。実物が無いから皆、余りピンとこないかもしれない。
火薬単品だと元寇の有名な絵のように大きな音が出るだけで終わるだろう。でもそれでも良いかも知れない。
あの絵のように馬を驚かせれば敵も混乱するだろう。兵器として使えるかもしれん。
それがダメなら花火職人として受け入れましょうって言おう。「文化育成になるでしょう」ってね。文化人の父上としてはそれだけでも御の字かもしれないし。




