そこに広がる光景
日が沈む頃、ようやく私は村の目前まで辿り着いていた。やった! やっと村だ! 生きている人と話せるかもしれない!
そう思うと、足の進む速度が上がっていく。
村は巨大な木で塀が作られ、外からの侵入などは簡単には出来ない作りをしていた。道の先には、その中へと入るための扉が見える。
なるほど、確かにこれなら野生動物とかの侵入は防げるかもしれない。あの化け猿みたいなのが居ないとは限らないわけだし。
いったいどんな村なんだろう。塀の奥が賑わってるのか騒がしい感じもする。
もしかして、何かお祭りでもやってるのかな。
村の中央付近から、天に昇るような煙も見えるし。
村の前に到着。
扉があるが、誰もいない。
うーん、どうしようか。勝手に入っちゃまずいよなぁ。
取り敢えず、扉をノックしてみる。コンコン。
……。
反応は無い。
扉には鍵がかかっていない。どうしよう、少し覗いてみようかな。怒られないかな。大丈夫かな。でも、このままだと立ち尽くす事になってしまいそうだし……
怒られたら素直に謝ろう。よし、それでは失礼します。
……。
上機嫌で、期待に満ち溢れた私を待っていたものは、私の想像を簡単に打ち砕いてしまうものだった。
「な、なに…………これ……。何を、しているの……?」
騒がしいのは当然だった。村は、襲われていた。
逃げ惑う人々、火の放たれた建物。
中には、倒れ伏し、動かない人達もいる。
それに縋るように泣き崩れる人、それを尻目に、非道の限りを尽くす者達。
また一人、親と思われる亡骸を抱え、泣き崩れた子供へと、下衆な笑みを浮かべた男が血で汚れた剣を振り上げた。
いけない。このままじゃ……!
無我夢中で駆け出し、私はその子供の前に躍り出てしまった。男に背を向けた無防備な私にに、剣が振り下ろされる。
目の前の子どもの涙を浮かべたままの驚いた顔。背中に伝わる衝撃。そして、剣の折れる音。
「あぁ、なんだァ? このチビは。オレの楽しみの邪魔をするんじゃねェ!! オレの剣を壊しやがって!!」
こんなボロボロだった剣なら、鎧に折れられたとしても不思議ではないか。まるで、野盗のような風貌の男へと、向き直る。
「そこを退け、でないと怪我じゃあ済まないぞおチビちゃん」
「嫌だ」
「なんだ。鎧で顔が隠れて分からなかったが、お前女か。へへ、女一人で出てきた事、後悔させてやるよ。泣いて謝ったって遅いぜ? そそるだけだからなァ!!!」
下賎な笑みを浮かべた男は、懐からナイフを取り出し、私に突きつける。
「震えてるじゃねぇか……可愛いもんだな、鎧だけで、武器なんて無い丸腰ででてくるなんてなァ?」
後ろで子供が、少年が震えているのが分かる。
初めて会話した相手が、こんな下衆な奴なんて……ついてないなぁ。
「この鎧も、飾り気はないが売れば結構な値が付きそうじゃねえか。ついてるぜ、金と女が自分から来るなんてよ」
ナイフを首元に突き付けたまま男の手が、私の肩に触れた。気持ち悪い。
「私に触らないで!」
その手を弾くように振り払った。
「がぁァッッ!?」
宙を舞う男。錐揉みしながら弾き飛ばされる。
弾かれた腕は変な形に曲がってしまって、見ているだけで痛々しい。
「えぇ……どうなってるの、これ」
そして、私は困惑していた。当然だ。私は軽く男の手を払って、その隙に懐に入って体当たりをすれば今の姿ならそれで無力化出来ると思っていた。
だが、最初の振り払った動きだけで、男は吹き飛んだ。物凄く回転しながら。地面に突き刺さる。
弾いたのが手じゃなかったら、この人死んでしまってたのではないだろうか。
しかし、この程度の相手だと分かれば話しは早い。一刻も早く襲われている人たちを助けなければ。
「しっかり逃げてね! 私が来たからもう大丈夫だよ!」
未だ呆然としている少年に声をかけ、走り出す。
向かってきた相手の腕を弾く。それだけで無力化できる。大丈夫、私ならやれる。少しだけ震える体を押さえて、私は村を奔走した。