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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
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世界の歯車

 海辺の村から少し離れた場所。そこにラグドラを含むビモグランデの兵士達は村を背にし、歩みを進めていた。


 マディガンの感情的な行動で白銀の勇者と呼ばれていたらしい魔鎧の持ち主は、徹底的に打ちのめされ、もはや再起は不可能だと思われる。

 それを、マディガンに処させる事でアギルゼスの希望は絶望に変わるだろうと、ラグドラは思いに耽る。



「……しかし、ラグドラ様。良かったのですか? 白銀の勇者の仲間が合流する可能性も、あったのでは……?」


 背にした海辺の村に視線を向けつつ、兵士の一人が問いかける。



「……それで帰ってこないのならあいつは無能だ。マディガンといえ、ビモグランデ国王から選抜され、魔鎧を託されたエリートなのだ。よもや、こんな場所で朽ちようならば、それまでの男だったという事よ」


 同じように、視線を海辺の村へと移し、足を止めたラグドラが一睨みした瞬間、それは起こった。


「な、何だあれはァ……!? あのシャボン……まさか、マディガンの!?」



 吹き荒れるような魔力の嵐。

 海辺の村から巻き上げられたそれは、マディガンの魔鎧の能力によって生成される破壊のシャボンだった。


 砂塵の隙間を縫うように走る紫電。その破壊力は遠目で見ても、凄まじいものだった。

 まさか、マディガンがあれほどの力を秘めていたとは……。



「……誰か足の速い者。様子を見に行け。あれがマディガンの最後かもしれん。亡骸でもなんでもいい。同郷の手向けだ。拾って帰ってやれ」


「はっ! では、私が……」


 一人、真っ先に反応したラグドラの直属の部下が、聞き終えると同時に海辺の村へと駆け出した。


 暴風のような魔力の嵐だ。

 白銀の勇者……心を完全にへし折ってやった筈だが、どういう事だ。


 しかし、あの膨大な魔力の暴走。

 マディガンも、白銀の勇者も無事では居ないだろう。



 ラグドラは再び歩み出す。


「我らビモグランデに敗北は許されない! 敗北とは死だ!」


 真っ直ぐと先を見据え、叫ぶ。



「アギルゼスに未来は無い! 栄光は、ビモグランデにあり! 何百年幾星霜の時の中で、散っていった同胞の墓前に刻むのだァ! 勝利を! 栄光を! 我々は、繋げなければならん! ビモグランデの明日の為に! 必ずや我らの使命を果たすのだ!」


 ラグドラの鼓舞に、動揺が走っていた漆黒の部隊の心に再び火が灯る。

 奮い立つ彼らを止められる者はいない。


 堂々と、悠然と。

 彼らは目的を達成するまで歩みを止めない。




 邪魔をするものは破壊する。

 その脅威は、瞬く間にアギルゼス全土へと拡がった。


 闇に潜む破壊と殺戮の部隊。

 全員が魔鎧に身を包み、人並外れた戦闘力でその場を蹂躙する悪魔達。


 人々は恐怖した。


 次は、我が身かもしれないと。



 しかし、アギルゼスには希望があった。

 正体こそ不明だが、アギルゼスの民や村、そういった人々を災厄から守ってくれる勇者の存在。


 白銀の勇者の存在が、圧倒的な力に立ち向かえる希望だった。





 そんな恐怖が蔓延する中、更なる絶望がアギルゼスの中心部へと届いた。



 ………………白銀の勇者が、討たれたと。


 その情報は、海辺の村の襲撃で生き延びた村人からの証言。そして、漆黒の部隊によるアギルゼスの兵士に対する挑発に使われた、その成れの果てが城へ届けられた事により、認めざるを得なくなってしまったのだ。


 白銀の勇者の魔鎧の残骸。潰され、赤黒く汚れた頭部は、アギルゼスの絶望として夕闇を鈍く照り返していた。












 ----だが。


 その噂が広まる中、それを鵜呑みにせずに動き出したものが居た。



「あの人がそう簡単に死ぬはずが無い……!」


「……けど、あれだけ頻繁に目撃されてたのに、もう随分とそんな情報は入ってないよ。それに、こんな状況だもん……何か、あの人達が動いたならすぐに耳に入る筈……」


「けど、じっとしてたって何も変わらないだろ! 俺は……あの人を探し出す!」


「…………どうしても、行くつもり?」


「ああ。だけど、あの人に国の命運を託すためになんかじゃない。僕の……俺の恩人の無事を確かめたいんだ」


「……分かったわ。私も一緒に行く。私を連れていかないと、貴方を行かせることはできない」


「そ、そんな事言われたって、あの人になんて言われるか……」


「……既に許可は貰ってるわ。最近の貴方の様子、薄々だけどこうなる気がしてたもの……」


「…………ベル」


「………………行くわよ、ガナード。一人で、無茶はしないで……」


「…………分かってる。……分かってる、よ」



 また一つ、歯車は動き出した。

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