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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
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その者は

久し振りの更新になります。

色々と設定を書いていたメモが、iPhoneの初期化によって消えてしまい、暫く絶望していました。

また、ボチボチ更新していこうと思います。

 息を呑む。

 目の前に佇む、常識では計り知れない存在。


 レンは、レンフィエンタはエルフとして、長くこの世界を見ていた。

 魔鎧が人並外れた力であることは、知っていた。



 だが、人間を超越するなど……ましてや、生物として死を超越するなど、聞いたことがない。

 エルフですら知らない存在。


 それが今、こうして目の前に居るのだ。




 あれは本当にアギサなのか。それすらも分からない。

 ビモグランデの兵士を葬ったそれは、全くの温もりを感じられない冷徹さを見せつけた。


 体が震えるのが分かる。武者震いではない、恐怖からくる震えだ。

 魔力を敏感に感じ取れるエルフだから解る。


 勝てない。敵わない。文字通りの、化け物だ。



 出来るものなら、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。そう思わずには、いられなかった。





 それは、一瞬だったのか、長い時間を隔てたのか。

 緊張の走る中、それはゆっくりと体をこちらへ向けて振り向かせた。


『そんな怖い顔をしないでください。私は敵ではありません、レンフィエンタ・アメニコルフィール。リルリィ・ドミバーナ』



 感情が一切感じられない無機質な声。


 敵ではないと言うが、二人の警戒に変化は無い。



「アギサ……アギサは、どうしたっすか……? アンタは! アンタは一体なんなんすか!? それに、その体……」


 リルリィが食らいつくように叫ぶ。だが、首と左腕のない姿を再認識し、言葉は続けられない。


『…………そうですね。何から説明致しましょうか』


 無機質な声は、それだけが違う空間にあるかのように一人だけが緊迫した空気を纏わない。



「アギサは……どうしたのですか? 死ん、だ……のですか…………?」


 それが何者かであるよりも先に、レンが知りたいのはアギサの安否である。結果は、火を見るよりも明らか……だったが、それでも聞かずにはいられなかった。



『アギサ……阿木早織の魂は生きています。肉体は、と聞かれるでしょうが、そもそも彼女は生身の肉体を持っていませんでした』


 アギサが、生身の肉体ではない?

 レンは確かに感じた。触れた肌の温もりも、抱きしめた体のやわらかさも。


「そんな……ことって…………」


 声が震える。それはつまり、アギサは出会った初めの時から人間ではなかったということ。

 アギサの人格は、魂は目の前のこの体に確かにあった筈だ。


 けれど、この者はアギサではない。



 疑問が疑問を呼び、真実から遠く離れていくように感じた。


「アギサの魂……? アギサ……オリ…………? 私には何がなんだかさっぱりっすよ!」


「私にも分かりません! 分から、ないんですっ……!」



 そう、アギサについて知らないところだらけだ。

 何処から来たのかも分からない。アギサ、と名乗った時も名前を途中で言い淀んだようにも、今になってしてみれば思える。


 先ほどこの者が口にしたアギサオリが、アギサの本当の名前なのだろう。



 そうなると、自分はアギサに本当の名前も教えてもらえなかったのか。レンは自分の思考に押し潰されそうになる。


 それを知ってか知らずか、その者は無機質な声で続けた。




『その反応……どうやら、何も知らないようですね。こうなってしまっては仕方がありません、この事は他言無用でお願いします。先ず、第一に阿木早織はこの世界の人間ではありません。別の世界からこの世界へと流れ出した魂なのです。そして、その魂はこの世界で原初の魔鎧へと定着しました。つまり、この身体は全てが魔鎧なのです。そして、原初の魔鎧の能力は……"願いの具現化"です』


 言葉が出ない。


 原初の魔鎧など、聞いたことがない。アギサがこの世界の人間ではないという事も、そんな事が有り得るのかと。


 混乱するレンを置いていくように、その者は続けた。



『阿木早織の肉体はその能力によって形作られた、紛い物の肉体でした。限りなく本物に近い偽物、です。そして、その能力は私にも繋がります。私は、阿木早織が生み出した存在です。その、願いの具現化によって……』


「つまり……アギサが願ったからアンタが生まれたってことっすか?」


『はい。あの状況で、心を折られかけた彼女は助けを求めました。助けられる存在を、望んだのです。願いの具現化とは言っても、簡単に願いを叶えてくれるわけではありません。必要とする事が、第一条件となるのです。他にも細かい条件はありますが、発現に必要な条件の殆どは、必要性になります』



 それは、アギサが心の底から助けを求めたということなのだろう。


 悔しい。

 そう感じたレンの頬には涙が流れ出す。


 自分では、アギサを助ける事が出来なかった。出来なかった。



「アギサは……無事、なんですね?」


『……今は意識を失っているだけに過ぎません。私は、それまでに損傷した部位を修復する作業に移りますがよろしいですか?』


「……まだ、聞きたいことは山ほどありますが、修復出来るのならしてください」



 絞り切るように出した声を最後に、レンはその場に崩れるように膝をついた。

 長く張っていた緊張が、ついに解けてしまった。


 膝が笑って、もう立っていることすらできない。



 信じられないことばかり、そして知らないことばかり。



 レンは日の沈んだ暗い色に覆われていく空を、ゆっくりと仰いだ。

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