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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
始まりの物語
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旅立ち

 朝だ。上空には遮るものがない広い草原。朝日が私を照らしつける。

 機械のままの体を起き上がらせ、辺りを見渡す。


 白と澱んだ黒に汚れた塊が落ちていた。

 いや、あれは私が昨日殺してしまった化け猿だろう。改めて、その大きさが凄まじかった事を再確認する。

 倒れていて尚、私と同じ高さ程もあるのだ。

 私と同じ高さと言っても、150cmを少し越えた程度のものなのだけれど。


 それにしても、この姿のままでも眠れた事は嬉しい。それだけで安全性が格段に増すのだ。それに、あまり疲れているようにも感じない。

 そういえば、まだご飯を食べることすら出来ていないんだよなぁ……と、思ったところで視界に、昨日の化け猿が入った。



 ……。




 いやいやいや、それは無い。無いから。まだそんなに空腹で動けないとかでもないし。うん。

 一瞬頭に過ぎった想像を無理矢理押し込む。


 流石に人に似た形の生き物を食べようとは思えない。


 だが、どうしようか。化け猿はこのまま放置していてもいいのだろうかと、疑問に思う。考えろ、この場合私はどうするのがいいのだろうか。この化け猿から得られるものとはなんなのか。






 ……。







 沙織は、化け猿の牙と爪を手に入れた。

 うん、素材集めだよね。モンスター倒したんだもの。剥ぎ取らなきゃ。

 毛は汚れていてあまり持っていたくもなかったので保留。だけれど、比較的比較的綺麗な部分を集めて、簡単な紐を作って牙と爪を持ち運べるように括りつける事にした。

 どこかで、物々交換に使えるといいな。

 この世界で使えるお金を持ってない以上、何か代わりのものを使うしかない。


 牙と爪を束ねて、作業完了。

 思ったより、この紐は強靭みたいだ。良かった。



 作業が終える頃には、日も高く昇っていた。

 持ち運べるよね。大丈夫。

 私は束ねた爪と牙を担ぎ、この場を後にする。


 昨日は暗くなってきてて気付かなかったけれど、キャンプの跡の近くに人の足跡を見つけた。

 それは、こちら側に向かってきているものだったけれど、これを辿っていけば今よりも人の生活圏に近付く事が出来るのではないだろうか。



 この先に人がいる事を祈りつつ、昨日キャンプの近くに埋めた人に黙祷を捧げ、この場から離れていく。

 安らかに、知らない人。


 こうして、私の異世界生活の2日目が始まった。

 今日こそ誰かに会えるといいな。






 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □










 「どういう、事だ……?」


 目の前の光景に、困惑と驚愕が入り交じる。


 この国でも、有数の面積を誇るボスティア草原。人の手が殆ど入っておらず、開拓等が殆ど進まない秘境とも呼べる場所だ。


 それは何故か。


 この草原には凶悪なモンスターが数多く存在する。モンスターの一個体事の戦闘力は、人間一人では到底相手にすらならないというもの。少なくとも、生半可な力ではどうする事も出来ないのだ。


 国王の名による、定期視察に来てみればどうだ。この草原でも上位種に名を連ねる、ザンドレアが地に伏せていた。白い死神とも呼ばれる、凶悪な猿のようなモンスターだ。

 勿論、並の人間が集団で挑んだ所で、勝ち目など無い。そんな、凶悪な存在が、地に伏せ、命を奪われていた。

 何か、別のモンスターと死闘を繰り広げた末のものなのかと近づいて見れば、そんな生易しいものではないと、その惨状が物語っていた。


 滑らかに一太刀で切断された腕、肩から腹部まで達する斬撃の跡、そして、失われた牙と爪。

 この草原に確認されたモンスターで、そんな事を可能とするものは知られていない。


 これは由々しき事態だ。


 一刻も早く、国王に知らせなければ。


 下手をすれば、王国の脅威となる存在が現れてしまった。

 規模は不明だが、厳重な警戒が必要だろう。



 「魔鎧着装、メギアガントレット!」


 両手両足が光に包まれ、深緑の鎧が装着される。

 私が選ばれた魔鎧、メギアガントレット。

 それは圧倒的な脚力と風魔法の両立により、高速での移動を可能とする私のとっておきだ。だが、この魔鎧の真髄は別にある。


 いったい、この草原で何が起こっているというのだ。

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