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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
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困惑、焦燥。

 緩やかな小道を抜け、周囲から生い茂っていた木々が少なくなってきた頃、その先の丘には石造りの外壁に囲まれた建物が密集した場所、集落か村か、見え始めてきた。


「おお、多分あそこが海辺の村っす! この調子なら日が暮れる頃には到着してるっすね!」


 既に日も傾き始めているが、この距離なら確かにそうだろう。人里に近い場所なら、大型のモンスターの出現も滅多に無い筈だ。


「お金は少しあるし、宿をとってゆっくり休むのもいいかもね」


「そうですね。服も体も、そろそろしっかりと綺麗にしたいですし……」



 ここでは、お風呂に入るという習慣は無い。熱を生み出すのにも、資源は必要だし、炎の魔法をそれだけ長時間持続させられる人材も、あまり多くはない。もっぱら、水浴びが主流なのである。


 けれど、水浴びをするにも公衆浴場のような場所に行くのも、何か少し抵抗があるし、川などでしようものならどこから見られるか分かったものではない。私だって見られるのは恥ずかしいのだ。



 どうせ、見られるのなら親交の深いレンの方が安心できる。


 流石に、野宿で服や装備を全部外して洗ってもらうわけにもいかなかったので、そのまま魔法を使ってもらっていたけど、やっぱり精度が違う。

 リルリィに至っては、ここの人達がそうなのかリルリィが特別なのかは分からないが、人前で脱ぐのに抵抗はあまり無いようだった。


 そうやって、宿に泊まった先の楽しみを思い浮かべて期待に胸を膨らませていると、それを打ち壊すように、それは起こった。




 振動。衝撃。そして、爆発。


 見えていた丘の上の民家は、炎に包まれ、見るも無残に崩れ落ちてしまう。



「な、何が起こったっすか!?」


「分からない! 分からない、けど……穏やかじゃなさそうなのは確かだよ!!」



 索敵……は、無理か。

 頭の中に広がるイメージに、もやがかかるようにノイズが走る。


 熱が、索敵の邪魔をする。私が使えるのは、そういう索敵だった。完全に便利な能力というわけではないみたいだ。



「……まだ距離はありますが、油断しないでください。何か、邪悪な気配を感じます」


 レンが険しい顔で、その先を睨む。


「……自分の身くらいは自分で守るっすよ」


 リルリィも自らの剣に手を掛け、戦闘態勢に入る。


「……私が先行して様子を見るのと、近くに敵が居るのならその注意を引きつける。レンは相手が確認でき次第、サポートをお願い」


「……分かりました」


「そんな、危険すぎるっすよ!」


 それは私が普通だった場合! 変身!


「メインブースター展開!!」


 油断ができない以上、生身で居るのも危険だろう。変身を済ませると、私の声に呼応して背部から現れるメインブースターに魔力が集められ、噴出される。


「な、なんすか!?」


 リルリィの驚愕の声を置き去りに、私の体は激しい衝撃と共に前方へと撃ち出されるように突き進む。

 ほんの少しでも、発見されるタイミングを遅らせるために、可能な限り低空を飛行し、膝や爪先が地面に擦れるか擦れないかの高さを保ち、爆発した民家へと速度を落とすことなく向かった。



 近付くに連れて、その爆発は奥の方でも広がっているのが分かる。どうやら、この町は何者かの襲撃にあったようだ。


 民家をの周囲に人影が無いのを確認し、上空へと飛び上がる。この状況を、確認するために。飛び上がった、筈だった。



「えっ……?」


 金属音と共に感じるのはメインブースターに押される感覚ではなく、上下左右も分からないような浮遊感。近付く筈だった空からは、離れていってしまっている。


 自分が、落下していると理解するのに、そう時間は掛からなかった。



 そして、その直後に感じるのは地面へと強く叩き付けられる感覚。私の体は硬い地面に弾かれ、二度、三度跳ねて地面を転がる。


「いったい、何が……?」


 体はまだ動く。どうやらダメージ自体はそこまででもないようだ。


 起き上がり、顔を上げると、どうやら私は既に誘い込まれた……と言うのか、怪しい雰囲気を纏う兵士達に囲まれていた。



 その中に、腕を突き出した形で、その手のひらに魔力の残光を残した兵士の姿もあった。恐らく、それに撃ち落とされたのだろう。だが、どうやって……?


 表情が分からない頭をしていて良かったと思う。


 今、内心では困惑と動揺が私を襲っているのだから。

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