ムードメーカー
晴れやかな朝の日差しが、優しく抱き起こすような朝。野宿にも慣れると、存外悪いものとは思わなくなっていた。
中には、朝梅雨で服が濡れてしまったり、虫がいてびっくりしたり、目が覚めたら目の前にモンスターが居て、思わず泣きそうになってしまったり、そんな事も含めて、旅なんだな。そう思えるようになった。
王都を離れ、リルリィを含めて旅を始めて約一週間程。三人の旅はゆるゆると続いていた。
まだ朗らかな森が続くらしいけれど、この先にはどうやら海があるらしい。
海。
夏、というには涼しい気もするけれど、海風に吹かれるのも悪くないかもしれない。潮風が私を呼んでいる! なんていうことはないけれど。
「あら、アギサ。目が覚めたのですか?」
「うん。今日のうちに海まで辿り着けるかな?」
「海……海って聞いたことはあるんすけど、私まだ見たことないっす! 楽しみっす!」
どうやら、また私が最後に目を覚ましたようだ。急ぐ旅でもないから、早く起きる理由が無いんだよね。と、少し言い訳を考える。
「リルリィって山育ちなの?」
「そうっす! 身を隠すにもよかったので、先輩が山の麓に小屋を建てて、普段はそこで生活していたっす!」
最初は王都に家を構えないのか。と、王都の外に点在する家や集落、村などを見て疑問に思っていたが、レン曰く、王都に住むには税を払わなければいけないとのこと。
つまり、そこそこ安定してお金を稼ぐ手段がなければ、王都に住み続けるのは難しいらしい。だが、税を払う分王都は王国の兵士によって守られることで、モンスターや盗賊の襲撃から守ってもらう事が出来るという。
リルリィの場合、傭兵ということなので自分の身は自分で守る事で王都の外での生活をしていたのだろう。
「山って結構モンスターとか出そうだけれど……」
「そのモンスターと戦って腕を磨いていたっす!」
出会いこそ、あんなに危険な事態だったものの、リルリィの剣の腕は弱いとは思えない。どうやら、肉体を強化するタイプの魔法を扱えるようで、瞬間的に速度を上げたり、直撃の瞬間に衝撃が重たくなったりと、魔力が少ない分工夫された戦い方をする。
瞬間的な肉体強化の独特な攻撃の流れに、生身の私は殆ど反応出来なかった。
「私はまだ戦闘経験が少ないからなぁ……」
「あれでっすか……?」
私の場合、技とかではなくてただ、強い力を使っているだけに過ぎない。そこに差が生じるほど、圧倒的ではあるけれど、もし、大きな差が無い相手が居た場合、戦い慣れている相手の方が優位に立つ事の方が現実なのだろう。
まだ、私は魔鎧を持つ相手とは戦った事が一度しかない。それも、どうやら魔鎧の中でも低位にあたる存在なのではないかとも思える。
噂では、人工的に魔鎧のようなものを作ってるなんて言ってた商人も居たくらいだし。
「私は肉弾戦はあまり得意ではないので、このメンバーの中では後衛が向いていますね」
レンは魔法使いだから。ガンガンいく魔法使いではない。バッチリ頑張ろう!
「私とリルリィが前衛で、レンが後衛……レンの魔法の強さは私もハッキリとは知らないんだよね」
「それを言うなら、アギサの魔鎧だって全力を出したりした事なんてないじゃないですか。お互い様ですよ」
「本当、私が凄く場違いに感じるっす。あれっすよ。あ、なんか一人だけ凄く弱い奴がいる! って、真っ先に狙われそうなの私なんすよ!!」
涙ながらに訴えるリルリィはとても演技派だと思う。演技が上手で凄いなぁと思いました。
「そんな子どもみたいな感想……って、演技じゃないっす! 本当のことっす!!」
更に涙を浮かべるリルリィ。あぁ、ちょっと可愛いかも。
「……!? 今、ものすごくイケナイ予感がしたっす!」
勘の鋭い奴め。
「取り敢えず、そろそろ出発しようか。今日のうちに海に到着するといいなぁ……」
「無視っすか!? 私を無視っすか!? 泣くっすよ? 本当に泣いちゃうっすよ!?」
「そうですね。ゆっくりするのも悪くないですけど、そろそろ移動しましょうか。ほら、行きますよリルリィ」
荷物を持って立ち上がった私に続いて、レンも後を追って立ち上がる。レンにまでさらりと流されたリルリィは、それはもう素晴らしい表情をしていた。
「う、うぅ……もう、何か新しい扉開いてしまいそうっす……。あ、ちょっと、待って欲しいっす! 待ってぇぇ!!」
リルリィも急いで私達の後を追う。最近、なんだか賑やかで楽しい旅になってきた。
リルリィちゃん結構お気に入りだったりします。




