悪魔は影に潜み見上げる
「ほ、報告は以上です!」
「……一夜にして全滅だと? あの場には魔鎧持ちが必ず一人は駐留していたはずだ!」
机を叩きつけ、ヴェギアは立ち上がる。
「午後には調査部隊の報告が来ます! それでは、私はこれで失礼します!!」
これはいったいどういう事なのか。冗談ではない。
寄せられた報告にヴェギアは猛りを隠しきれないでいた。
寄せられた報告は伝令鳥によって届いた報告とも呼べない緊急伝令。その内容は
『ビモグランデより敵襲、数は三十以下、ボスティア平原方面から夜間襲撃より混乱、相手は全員魔鎧持ちと推測される』
と、殴るように書き綴られていた。
少数精鋭部隊の奇襲。それも、全員が魔鎧持ちであるという。ボスティア平原を抜けて来たのであれば、それにも納得が出来なくはないが、信じたくはない。
全員が魔鎧持ち。それは恐らく、例の人工魔鎧が関わっているのだろう。
やはり、ビモグランデ側の仕業であったのか。
人工魔鎧はどこから流れ着いたか、ならず者達の間で流通していたナンセンスな代物だ。だが、魔鎧といった力を持ったが故に、そいつらは人を襲う。暴力を振りかざす。
アギルゼスの研究員には、残虐性や悪意を増幅する装置とも言われていた。
「…………戦争の時が近いか」
ヴェギアは空を睨みつける。青々とした澄んだ晴れやかな空。それはまるでこれから先の国の行方を嘲笑っているかのように、国を、世界を照らしている。
「……忌々しい」
ならず者達への魔鎧の供給は、情報を集める為だったのか。戦闘の記録を集め、解析し、新たな人工魔鎧を作り出したとでもいうのだろうか。
このままでは、明らかにアギルゼスは押し切られてしまう。
ならばどうするか。兵たちの間では、やはりというべきか、白銀の勇者の人気は高い。
救世主などと期待している者もいるが、そんなもの夢物語だ。
夢物語の英雄伝説。昔話にそういったものがあったからなのか、アギルゼスでは白銀の勇者をその再来だと信じている者も居るのだろう。
だが、夢物語なのだ。
白く輝く鎧に身を包みし勇者アギルは降り掛かる災厄と闇を切り払い、国に平和をもたらした。
白銀の勇者はその姿から、この物語に準えて語られる。
「……本物の勇者ならば、彼らを救えた筈だ」
ヴェギアは白銀の勇者を信じない。
今、国を護るのは自分達なのだ。王国の兵士として、ヴェギアはここに居る。
「既に領土内に侵入してきたビモグランデの部隊……厳重警戒が必要だ。だが、国境の二の舞を踏まぬ為にはどうすれば……」
彼の苦悩は終わらない。
短いですがアギルゼス側視点は一区切りです。




