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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
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悪魔の宴

※このページは残虐な表現を含みます。

 また一人、仲間が殺された。貫かれた体は暫くもがき苦しむと、やがて力なく動きを失っていく。流れ出した血が、彼の命を押し流してしまった。



 これはいったい何の悪夢だろうか。



 ここはアギルゼス王国の兵士が数百人程滞在すふ駐屯施設。ビモグランデ側の動向を探るための、国境付近の駐屯施設だった。

 国境とは言っても、あのボスティア平原を挟んだもので、ビモグランデの軍の大きな動きがないか、ボスティア平原から渡ってきたモンスターの退治が主な仕事だった。


 約半年毎の交代で繰り返されていた仕事だが、長年モンスター退治しかしていなかったからなのだろうか。危機感が、薄れていたのかもしれない。

 中には酒の席で、そういったことを口走っていた者も確かに居た。



 この日、夜も深まった頃。一人の哨戒が警報を鳴らした。これまでも、夜行性のモンスターが現れる事はあったが、その警報はモンスターが現れた時に鳴らすものではなかった。

 今まで、一度も鳴らされなかった警報は、対人戦闘を想定したもの。つまり、ビモグランデの兵士が攻めて来た時の為の、緊急警報だった。



 慌ただしく戦闘準備が行われ、統率が取られていない時に、それは起こった。



 駐屯施設の中心。駐屯兵を率いる隊長が構える司令部が、炎に包まれ、弾けたのだ。

 誰もが手を止めてしまう程の衝撃。


 もはや、統率など無かった。最悪の状況だ。



 訓練されているとはいえ、頭を潰されてしまえば混乱は生じる。きっと、奴らもそれを狙って居たのだろう。あの爆発だ。隊長が無事で居るとは思えなかった。


 しかし、何故魔法に誰も気が付かなかったのか。感知魔法くらいこの駐屯施設には掛けられていた筈だ。

 魔法が感知されていないのが混乱を加速させるもう一つの要因となっていた。



 だが、それも、奴らの姿が現れた事で畏怖と共に、理解させられた。



 「なんだ、アギルゼスの奴らはこの程度だったのか……これまで、無駄に長引かせてた拮抗も、もう終わりだな」


 ボスティア平原側の森から、重厚な鎧に身を包んだ男が現れた。そこからが、悪夢の始まり。


 男の背後には十数人程度の兵しか居らず、なるほど、この人数であれば平原の移動も感知されなかったのかと納得出来た部分はあった。

 だが、不可解なのはボスティア平原には、そこかしこに強力なモンスターが棲息しているのだ。それこそ、ビモグランデからアギルゼスへ渡ろうと思うのなら、モンスターとの遭遇は避けられない。


 それなのに。


 それなのに、だ。この男達はまるで何も無かったかのように、疲弊した様子すら見せずにこの場に居るのだ。

 ボスティア平原に生息する、モンスターの頭を掲げて。



 「平原のモンスターも言われていた程脅威でも無かった……拍子抜けだったぜ?」


 こちらを嘲笑うかのように、モンスターの頭が駐屯地へと投げ入れられる。

 その中には、皇獅子イギガン、死神ザンドレア、蛇竜ハレビルークといった、魔鎧持ちですら相手にするには苦戦を強いられる程のモンスターの姿があったのだ。


 それを、この男達は仕留めたというのか。信じられない。信じたくない。目の前にいるモノが、モンスター以上の化け物であると。



 「…………か、勝てるわけがない! こんな……化けも」


 アギルゼスの兵士から、悔しさを噛み殺した声で叫ぶ声が上がる。そして死んだ。



 「そんな弱気じゃ兵士失格だぜ? そんな情けない奴らと戦わせるなよ」


 胸に風穴を開け、死んだ兵士をまるでゴミでも見るかのように、その男は吐き捨て、殺したのだ。

 だが、何をした?


 ビモグランデの奴らはまだ駐屯地の入口付近までしか近寄っていないのに、ただ、手を翳しただけで死んだ。



 動揺と恐怖がアギルゼスの兵士達へ広がっていくのが分かる。足が震え、体が竦み、蛇睨まれた蛙が如く、殆どの兵士が動けないでいた。



 もはや、一方的な蹂躙である。群れた蟻を潰すかのように、こちらの抵抗など意に介される事も無く仲間が死んでいく。





 魔鎧。


 そう。この男達は全員が魔鎧を持っていた。


 ある者は右腕から炎を吹き出し、ある者は触れたものを凍り付かせ、またある者は魔鎧を通して増幅させた魔力を魔法として展開させていた。



 刃は防がれ、折られ、砕かれ、その身は引き裂かれる。死した者にも容赦なく降り注ぐ圧倒的な暴力は、原型をとどめない肉塊を生み出し続ける。



 戦争でもなく、狩りでもなく。これは、奴らにとっては遊びに過ぎないのかもしれない。

 背を向ければ殺られる。だが、この事態を王国へ知らせねばならない。死にゆく仲間を見捨てて、恨まれようと、逃げ延びなければならない。



 悪魔だ。こいつらは、悪魔なのだ。頭を砕かれた死体が血を撒き散らして吹き飛ぶ。

 これは、悪夢だ。いや、夢であればもう悪夢ですら構わない。残虐の限りを尽くすビモグランデの兵士達は、更にその過激さを増してゆく。



 人の形の残る限り、それを破壊し尽くすまで攻撃の手を緩めない。生きていようが、死んでいようが、止まらない。




 伝えなければ、この危険を。


 知らせなければ、この悪夢を。





 走り出した私の胸には巨大な風穴が開いていた。

名も無き兵士の最期。

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