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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
51/65

一般人

 歌うかのような小鳥の囀りが聴こえる朝の木漏れ日。森の暖かさを孕んだ柔らかな風が吹いた時、私の意識は覚醒した。


 「あ、起きたっすか? 気持ちのいい朝っすよ〜!」


 「ん、おはよ……」


 ふわりと栗色の髪の毛を浮かばせて振り向く、淡い褐色肌の女の子。年齢は十七歳だという。先日の一件で服を殆ど失ってしまった彼女は、上半身には長い布を巻き付けているだけである。それに、彼女の使っていたという小さめの盾を、レンが変形させて胸当てとして再利用させた。


 レンの魔法の汎用性は留まるところをしらない。


 寒い地方なら、とてもではないが無理な格好だ。それに、露出した腕やお腹を見る限り、この肌の色は日焼けではなく、彼女の元々の色らしい。



 どうして彼女、リルリィが一緒に居るのかというと、話せば長くなるのけれど、簡潔に言えば着いて来た。

 薄々、そんな気はしていたのだけれども、どうしても一緒に行きたいと、あまりに必死な姿にいたたまれなくなり、私もレンも折れるしかなかったのだが。


 そして、着いて来るのはいいけれど、万に一つも私達を謀ったりしないようにと、レンと相談して条件を設けようという結果に至った。


 森の、少し開けた場所で野営の準備をし、腰を下ろせばレンの浄化魔法でのリフレッシュタイム!

 終わる頃には程良く眠気も襲ってきた。もう夜も遅かったので、条件についてはまた明日。つまり、今日伝える事になったのだ。と、いうのを今リルリィの顔を見て思い出した。



 「そ、それで……私も一緒に連れてってくれる条件ってなんっすか!?」


 すずいっとキラキラと輝く目をさせて、身を乗り出してくるリルリィ。私は上半身を起こしているだけなので、傍から見れば、リルリィが私に迫っているようにも見える。いや、ように、ではなく迫っている。


 「ちょ、リルリィ近い! 顔が近い!」

 「はぅっ……」


 だんだんと距離を縮めてくるリルリィの顔を掴んで、押し離す。本当に落ち着きが無いな、こいつ。


  「……レンは?」


 目が覚めてから、辺を見渡すがそこにレンよ姿は無い。彼女の事だから大丈夫だろうとは思うが、私より先に起きていたリルリィならどこに行ったのか知っているかもしれない。


 「レンなら朝ごはん調達してくるって言ってたっすよ。少し前に出ていったっす」


 むむむ……朝ごはんか。朝ごはんなら仕方ない。


 「……条件について、私にも、レンにも関係のある事だからレンが戻ってきてからね」


 「くうぅっ……すごく、すごーっく気になるっす」



 体全身に力を込めて表現するリルリィ。やはりリアクションが大きい。


 「……けど、聞いたら本当に後には退けなくなるよ? それでもいいの?」


 何度目かの確認。とても重要な事なのだから、聞いてないっす! とか言われても困るので、もう一度念を押す。



 「……私だって、自分の信念の為にお願いしてるっすよ。アギサ達が普通ではないと見せつけられてるんだから、生半可な覚悟では言ってないっす」


 一転して、神妙な面持ちで答えるリルリィ。譲れない何かがあるらしい。と、するならば、何を言ったとしても無駄だろう。いらっしゃい、こちら側へ。



 「あら、アギサ起きたのですね。ほら、これだけ見つけましたよ」


 そこに、両手いっぱいに果物を抱えたレンが帰ってきた。中にはまだ見たことのない果実も混じっている。



 果物の甘酸っぱい香りが、私の食欲をそそらせる。


 「朝ごはん!」


 「たっぷり取ってきましたから。ゆっくり食べましょう」



 ナイフを手に取り、受け取った赤く柔らかな果物の皮や蒂、その他食べるのに邪魔になりそうな部分を切り落としながら、溢れる果汁に堪らず一口。


 「……おいしい!」


 甘い味が口いっぱいに広がって、熟した果肉が流れ込むように喉を過ぎていく。



 「……あの、条件をお願いしたいっす」


 私が一心不乱に果物のと食の格闘戦を繰り広げていると、痺れを切らしたのか、リルリィが私に声を掛けた。


 明日に引き延ばしたのだから仕方ない。条件を提示してあげよう。



 「……レン」


 「ええ、条件ですね。リルリィ、覚悟はよろしいですか?」


 私の呼び掛けに、レンが頷き、リルリィへと問う。


 「覚悟は充分っす!」


 両腕で拳を握り、緊張混じりに答えるリルリィ。


 「では……認識阻害の魔法も解除しましょう」


 その姿を見て、レンは自分の耳を隠していた帽子を外す。エルフ特有の、長い耳。


 それから認識阻害の魔法……? 何それ、私知らないんだけど。

 私は普通にレンをエルフだと認識してたから効かなかっただけなのかな……?


 「その耳……まさか、エ、エルフ……!? エルフって、伝説の存在じゃなかったっすか!? 嘘……」


 やはりエルフ自体はとても有名であるらしい。なんといってもリルリィでさえ、一目見て気付く程なのだから。

 けれど、それは同時に見られたらすぐに気付かれるという事でもある。


 上手いこと隠していかなければ。



 「そうです。私はエルフです。アギサとは縁あって行動を共にしています」


 「そ、そんな……そんな事、私に教えてしまっていいんすか!?」


 「ええ、人に教えるのはとても危険です。なので、誰かに口を滑らせてしまった時は……口封じをしなければならないかもしれませんね」


 笑顔で言い放つレン。恐ろしい。

 エルフである事を知らせる事。危険は伴うが、リルリィには重すぎる秘密を暴露することで彼女の危機感を上げさせよう作戦。



 ガクガクと震えながら頷くリルリィを見る限り、効果覿面であるようだ。


 「ふふふ。まだまだ驚くのは早いよ。私も、不本意ながら実はそこそこ有名人になってるみたいなんだよね」


 「アギサもっすか……!?」


 体を大きく動かして驚きを表現するリルリィ。反応がさっきから面白い。



 「そそ、知ってるかどうかは分からないけれどね。私、これでもさ……」


 変身。


 姿勢はそのままに、心で念じる。

 口に出さずとも、変身しようと思う事がトリガーとなるようだ。

 例のごとく、私の体は光に包まれる。


 光が収まると、そこには白銀に身を包んだ私の姿。魔鎧と呼ばれている特殊な装備に包まれた姿となった。


 「ま、まさか……!」


 「白銀の勇者だっけ? 勝手にそう呼ばれてるよ」


 「う、うそ………………」



 驚きすぎてついに腰が抜けたのか、強ばっていた体がふにゃりと脱力する。


 「これからよろしくね。リルリィ」


 「あっ、えっ……」


 その姿のまま、軟体動物と化したリルリィへ握手を求める。だが、動けなさそうなので勝手に手を取ってブンブンと上下に振る。


 「私達の正体を知る。それが着いてくる条件だよ。勿論、他言は無用ね」



 ぱちんっ、とウィンクしたつもりなのだけれど、この体だとそもそも目なんて無かった。ちょっと恥ずかしい。


 「あは、あははは……エルフに、勇者…………」



 当のリルリィはキャパシティオーバーで絶賛再起動注でございます。その後ろではレンが笑いを堪えつつ、帽子と、おそらく認識阻害の魔法を掛け直していた。


 一般人リルリィの運命や如何に。

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