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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
紡ぎ合う物語
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掲げられた剣

今更ですけど、白色の剣の読みは《ハクショクノツルギ》です。

ええ、そうです。

ルビの振り方わからなかったんです。

 それから暫く、リルリィが落ち着くまで待ち続け、半ば空気と化していた縛り上げられた盗賊達にちょっかいを出しながらも、待機していた。


 涙に濡れたぐしゃぐしゃの顔は、サッと一撫で。レンの浄化魔法で綺麗さっぱり。



 それに対してもまたオーバーなリアクションを見せてくれたが、キリが無いので割愛。それから、破かれてしまった服は換えが無いので、レンのマントを巻き付ける事で現状済ませている。


 それから私達は、あの商人の襲撃現場へと戻った。急いだ行きと比べると、だいぶ距離が開いていたようにも感じる。

 あの盗賊達、移動力は結構あったのかもしれない。


 見つけたのが私達でなければ成功していただろうに、恨むなら自分達の不運を恨んで欲しい。捕縛した盗賊達も連れて来ようかと迷ったけど、そのまま腕だけ固定したまま放置して来たのだ。

 運が良ければ他の仲間、まぁ、居たら……の話だが。仲間と合流すれば生き延びる事は出来るかもしれない。


 十中八九、森の魔物に襲われて終わるだろうが。


 あのリーダー格の腕を切断した為に、あの辺りには既に血の匂いが充満していた。レンと私が居なくなった今、魔物にとってはまたとない好機だろう。

 盗賊が達も弱くはなかったのだろうが、腕が使えなければ逃げる事ですら精一杯だろう。

 


 リルリィの移動速度に合わせていると、思った以上に戻るのに時間がかかってしまった。彼女も傭兵の端くれ、遅いというわけではないのだろう。


 改めて、私達は普通からは逸脱した存在なのかとも考えたりもしたが、悩み頭を抱えるのは私らしくない。ので、移動速度が遅くなった分、周囲の物を観察するようにしてみた。



 王都の東部近郊での活動しかしてなかっただけに、この西部方面には見慣れない植物や動物が存在した。


 その中でも、何か食べられそうな果物が無いかと可能な限り視線を飛ばしてみたが、めぼしいものは見つけられなかった。残念。



 そうこうしている内に、襲撃現場が目前に迫っていた。

 リルリィは口をきつく結び、僅かに潤ませた視線はそれでも力強く前を向いている。



 「…………強い、な」


 「ん……? アギサ、何か言ったっすか?」



 私の漏れた呟きが耳に入ったのか、リルリィが尋ねてくる。


 「んーん、何も。強いて言うのなら、美味しそうな果物、この辺りじゃ見付からないなぁって」


 「すっごいマイペースっすね!?」



 気付けばもう瞳も潤んでいない。強いなぁ。




 そして、遂に襲撃現場へ。

 そこには私達が離れた時と変わらず、商人の亡骸、盗賊だったもの、そして、木に凭れる傭兵の男。


 「あ、あぁ……先輩、先輩!!」


 その姿を見て、堪らずにリルリィが飛び出し駆け寄る。それと同時に、別の場所から感じる感じる殺意。


 「いけない……!」

 「大丈夫です、既に手を打ちました」


 反射的にナイフを投擲しようとした私よりも先に、レンは行動を済ませていた。それに合わせて、投げる方向を僅かに逸らせる。

 リルリィが傭兵の男に接触しようとした瞬間、放たれたのは金属の矢。狙いは鋭く、リルリィの胸へ目掛けて狂いなく放たれていた。だが、それは突然地面より突き出した木々の根によって阻まれ、弾かれる。


  「……えっ?」


 異様な動きを見せた根に、リルリィが異変に気付く。それと同時に、私の投げたナイフが見事に獲物を貫いてくれたようだ。


 低い呻き声と共に樹上からボウガンを手にした男が落下する。よく見れば、この場に私達が来た時にこちらを見ていた男だ。

 そのまま逃げれば、見逃してあげたのに。


 未だもがき苦しむ男へと駆け寄り、突き刺さったナイフを回収し、白色の剣を構える。


 「…………手を出さなければやられなかったのに」


 白色の剣の刃を滑らせ、もがく男の首を半ばまで切り裂いた。吹き出した赤黒い血が辺りの地面へと染み込んでいく。


 「……また、助けられてしまったっすね」


 「気にしなくていいよ。私が不快だっただけだから」



 白銀の勇者なんて呼ばれ始めていたけれど、私は別に正義の心を持って人を守る事を率先してやっているわけじゃない。


 ただ、目に入って不快だったから。私が世話になった人に迷惑が掛かったから。気まぐれ。

 実際、そんなものなのから。


 自分の力が明らかに異端なのは分かってる。だからこそ、利用をされたくない。私は私のために自由に生きる。

 それこそ、極端な話、私がこの世界の人間全てに不快感を覚えたら世界そのものを滅ぼそうとしてしまうくらいには。



 しないけどね。



 「それより、その人……そのままにはしておけないでしょ?」


 傭兵の男に視線を向けると、ハッとしたようにリルリィは、木に凭れる彼を地面へと寝かせる。



 彼女はその肉体を貫いていた剣を引き抜いていく。既に血は殆ど流れきってしまい、固まった血液が抜いた剣に付着している程度だ。


 体に刺さってる剣を抜き終えた辺りで、レンに目配せをする。その意図はすぐに伝わったようで、一つ頷くとリルリィの隣へ腰を下ろした。



 「……ありがとうっす」


 「首を突っ込んだのは私達の方ですから。せめて、これくらいの事はさせてください」



 静かに目を伏せ、その手に纏った水の魔力が、血と泥に汚れた男の身体を慈しむように包んでいく。汚れはしっかりと洗い流される。


 「……本当に、ありがとうっす。先輩……!」


 傭兵の男の亡骸を抱き締め、リルリィは涙流す。最後の別れを惜しむように、力強く。




 その後の埋葬は滞りなく進んでいた。私が掘った穴へ、傭兵の男を寝かせ、レンが土を操り墓を作る。墓標には、男の使っていた剣の一つが使われた。


 もう一つは、リルリィが形見として持つことにしたらしい。


 「先輩……! 今まで、根無し草だった私を拾って、育て、鍛えてくれた事……ありがとうございました! この通り、アギサとレンのおかげで私は無事だったっす! 私は、これから、先輩の元を離れて生きていくっす! だから、心配しないで……どうか、安らかに、眠って欲しいっす」



 墓標に自らの剣を掲げ、彼女の決意を表明する。私達との出会いと、先輩傭兵との別れ。


 これは、きっと彼女にとってのターニングポイントだったのだろう。それは、彼女だけではなくて、私達にとっても。



 「ありがとうございました!!!」



 深々と、勢いよくリルリィは頭を下げる。その胸中には、この人と過ごした時間分の気持ちが込められているのだろう。





 木漏れ日の中、静かに佇む一つの墓標。そこには守るべきものを守りきった一人の男が眠っている。

リルリィ仲間フラグ。

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