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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
始まりの物語
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完全決着

 両者は視線を交わし合うが、どちらも動かない。その間も絶えず水滴が、地面に吸い込まれる。化け猿の腕は中ほどから綺麗に両断され、腕を押さえても傷口から流れ出る血液は止まらない。


 私が偶然とはいえ、切り裂いた。

 ソードウェポン。右腕が中心から左右に僅かに開き、その隙間から折りたたみナイフのような形で姿を表している。

 しかし、刀身は私の腕よりも確実に長い。手首から肘までしか形状は変わっていないのに、出てきた刀身はその二倍近くある。この状態でも指先はフリーなので、物を持ったり出来るかもしれない。剣が邪魔だけど。きっとこの剣は、空間圧縮魔法のちょっとした応用でも使われているのだろう。この世界に魔法があるかは不明だけど。



 兎に角、この化け猿を倒すか、追い払うかしなければ。安心して夜を越すことも出来ない。いや、こんなのが現れてしまった以上安心はまったくできなくなってしまったわけだが。


 ざわり。

 化け猿が傷口を抑えていた腕を後ろ身に移した。何か、するつもりなのだろうか。


 私は慣れない剣を構え、警戒する。

 暫くの沈黙の後、向かい風が強く吹き抜けた。


 同時に、化け猿の腕から何かが投擲された。ボーリングの玉ほどもある塊が、私目掛けて高速で突き進む。

 なんとか、それに反応して投げられたそれを剣で弾き落とす事に成功した。


 「ひっ……!?」



 私は地に落ちたそれと、目が合った。

 人だ。人間だ。これは、人間の頭だ。視界に入ったそれを、頭が理解してしまった。


 そして、化け猿の爪は既に目前に迫っていた。

 私がそれに気を取られた隙を狙われた。



 「こん、のぉ……っ!!」


 重たい。

 腕を盾にして、爪の直撃を間逃れる。だが、それを抜いても強烈な一撃に、踏ん張りの効かなくなった私は大きく弾き飛ばされてしまった。


 きっと生身だと激痛で動けなくなっているか、既に死んでしまっているかのどちらかだろう。

 自分でも驚く程に体が動いてくれるようだ。転がりながらも体勢を整え、立ち上がる。


 化け猿は、更に追撃をせんとばかりに飛び上がる。この巨体で、10m程も飛び上がる猿はやはり化け物と言う他無いだろう。


 だけれど、これなら軌道が予測できる。



 「さっき私を吹き飛ばした時、逃げてれば……これ以上しなくても済んだのに!!」


 化け猿へ向かって飛び上がり、右腕の剣で迎撃をする。どうやら、私の振り抜く速度の方が化け猿より早かったみたいだ。


 確かな手応えと共に、化け猿は受身も無く地面へと激突する。衝撃に小さいうめき声を上げ、動かなくなってしまった。そして、私も前のめりになりすぎて上手く受身を取れず、地面と熱い抱擁を交わしたのだった。




 ……。



 さて、化け猿の様子を見てみよう。慎重に近付きつつ、化け猿が生きているのかどうかを確認する。死んだふりとかじゃないよね?

 念の為、地面に落ちていた小石を投げつけてみる。


 ……反応は無い。



 更に近づいて、剣をゆっくり、後肢へと突き立ててみる。



 ……ぴくりとも動かない。



 どうやら、完全に絶命したようだ。


 身を守るためとはいえ、現代に生きる一般人の私が直接大型の生き物の命を奪ってしまった。人間、危機が迫ればやればできるものなんだな。

 ではなく、普通ならここでもっと罪悪感とか恐怖を感じる部分なのではないだろうか。



 私には、倒したという達成感はあるが、先程まで感じていた恐怖も、命を奪ったことに関する罪悪感も全く感じないわけではないが、凄く薄いのだ。


 これも、この世界に来た影響なのだろうか。


 気付けば、完全に日は沈み、空には無数の星が煌めいていた。この世界初の夜である。



 ……そして、私のこの世界初の人との遭遇は、物言わぬ死人とであった。

 叩き落としてしまったので、土葬ではあるが、見よう見まねの供養をさせていただいた。知らない人、どうか安らかに。



 それにしても、この機械の鎧……凄く丈夫だ。

 泥で汚れはしたものの、どこも壊れたりはしていない。傷も表面にうっすらとある程度で、ダメージと呼べるものでは無かった。


 あとは、この化け猿がこの世界の基準ではどれ程の強さなのによって、私の鎧の性能が少しは分かるだろう。




 緊張の糸が切れると、どっと疲れが……


 今日はもう、休もう。

 火は結局、起こせなかったので鎧のまま眠る事にした。疲れが取れるといいけれど。

チュートリアル。

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