強さへと繋がれ
「な、なんか眩しく光ったと思ったら助けられてたっす!!」
それが、彼女の体感なのだろう。助け出した栗色の髪をした少女は興奮した様子で、さっきからすごいっす! すごいっす! と、はしゃいでいる。
さっきまで襲われかけてた子だとは思えないテンションに、私もレンも面食らってしまった。
「えっと、怪我とかはありませんか?」
「お陰様でこの通りピンピンっす! というか、これどんな魔法っすか!? こんなの私見たことないっすよ!」
「……水の魔力を応用しただけの洗浄用の魔法ですよ」
レンの浄化魔法で身を清められる。その間もうるさかった。うん、とても。
どうやらこの少女……とは言っても、今の私よりかは見た目の年齢では少し上のように見えるこの子は、落ち着きが無いらしい。
さっきからずっとこの調子である。
「……それで、君の名前は?」
私の問いかけにハッとしたように、わたわたと少しオーバーなリアクションと共に少女は名乗った。
「申し遅れましたっす! 私、傭兵として働いてるリルリィ・ドミバーナっていう者っす!」
リルリィと名乗った少女。やや日に焼けた小麦色の肌に、栗色のショートヘアー。先程まで露わにされていたその体は引き締まっており、スポーツ少女のような印象を受ける。
傭兵、というからには訓練を積んでいたのだろう。その体には薄らとした傷跡も見て取れた。
「リルリィ、ね。私はアギサ。それで、リルリィの身体を綺麗にしてくれたのが……」
「レンフィエンタです。どうぞ、レンとお呼びください」
リルリィの自己紹介に合わせて、私達も名乗る。
「アギサとレンっすね! 危ないところを助けてくれて、本当にありがとうっす!!」
私の手を両手で掴んでブンブンと振り回すような激しい握手と共に、感謝の言葉を口にするリルリィ。本当にリアクションが大きい。
体格では私の方が負けているため、上下に体が揺らされる。
「リルリィさん、これは……貴方の、ものですか?」
激しい握手を交わすリルリィに、レンが歩み寄り、手のひらの中にあるものを彼女の目前に差し出す。
そこにあるのは花の髪飾り。
それまで、明るい表情を振りまいていたリルリィの視線が凍り付いたようにその温もりを失い、髪飾りに釘付けられる。
「これ、は…………これを、どこで……?」
「……傭兵の男性から託されたのですよ。自分は、行けそうにないから、と。代わりにこれを届けて欲しい。そう、言われました」
表情を曇らせ、歯を食いしばり、震える声で問い掛ける彼女に、優しい声でレンは答える。
だが、彼女の言葉は真実ではない。
私達があの場に着いた時には、既にその男は事切れていた。それでも、レンは続ける。
「『約束をしたのに守ってやれなくてすまない』。彼が、貴女に伝えて欲しいと頼まれていた言伝はこれだけです」
その言葉に、リルリィの瞳から涙が零れ落ちた。
「…………私は、先輩に助けっ、られたんすね……?」
レンは何かを聞いていたのだろうか。完全に生命として認識されなくなっていたあの傭兵の男から。
「……はい。そうかも、しれませんね」
声を押し殺して、泣いているリルリィに、レンは花の髪飾りを栗色の髪に留めた。
「…………ディベルさんは、立派な最期を迎えられました。そして、リルリィさん……貴女には生きてほしい、と」
決壊した涙腺は、溜め込んでいた感情を押し流す。これまで感じていた恐怖も、大切な人を失ってしまった悲しみも。
「私は……何も、出来なかった! 護られるばかりで、足を引っ張って、私は……!!」
リルリィの泣き声が、森を木霊する。
彼女の後悔が、悲しみが、涙となって次々と溢れ、食いしばった歯がガチガチと音を鳴らす。
「もっと、強くなるっす……! 強くなって、先輩がもう心配しなくてもいいように、私は生きるっす……!! 」
リルリィが自分へ言い聞かせるように、叫ぶ。
優しく抱き留めるレンと、涙を流し、新たな決意を胸に決めたリルリィ。そして、それを眺める私。
この空気を邪魔する事が出来なくて、かといってレンのように話に入り込む事も出来なくて。
こうして、私は彼女が泣き止むまで動くことができないでいた。




