欲望の散華
少し残酷な描写があります。
残された足跡を辿るように森の奥へと足を踏み入れる。せっかく新調したばかりの装備が泥や草木で汚れるのが少し気にはなるけれど、後でレンの浄化魔法で綺麗にしてもらおう。
足跡から推測できる盗賊の人数は三人か四人程。そのうちの一人が、隠れていた男なのだろう。
まだ、時間的にも遠くへは行けてない筈。
私とレンの速度なら容易に追い付けるはずだ。
木々の合間を縫って足跡を追い掛け始めてから暫く、先から男達の話す声を感知する事が出来た。
「見つけた……!」
私の口から漏れた言葉はレンにも聞こえたようだ。私の視線の先を確認して、もう一度私に視線を戻す。
「……私は木が邪魔で見えません! アギサ、位置は?」
「えっと……位置は正面! 距離は…… 」
頭の中に浮かぶイメージは、さながらレーダーのように周囲の生物の反応を映し出していく。その中に感じる、野生動物や魔物とは違う生き物の反応。それも、複数が不自然に群れた反応が感じ取れるポイントを口頭で伝えようとした。
だが、それよりも早く、レンは次の動作を行っていた。
魔法とも呼べない、ただ破壊力のあるだけの純粋な魔力の塊が撃ち出された。
正面に掲げられた杖の先から、文字通り真っ直ぐに。
それは暴力的に邪魔な障害物を粉砕し、直進する。
「うわぁ…………」
魔力の塊の通り道には薙ぎ倒された木々が、新たな道を開いていた。強引に。
「……少し、逸れましたね」
「…………急ぐよ!」
人間の影が視認できる程開かれた道を突き進む。レンは先程の魔力放出の精度に不満があるようだが、今は優先させる目標が違う。
当然、不意を付いた攻撃に対応出来るはずもなく、私達が到着するまでの間、盗賊と思われる人間の影は呆気に取られたまま立ち尽くしていた。
「……な、何だお前らは!!」
お決まりの台詞である。
漸く我に返った盗賊の一人が声を荒げていた。
それもその筈、この場を見れば一目瞭然。盗賊達はこれからお楽しみタイムの直前だったのだろう。
肌を顕にされ、数人がかりで抑え組み伏せられた栗色の髪の少女と、いきり立つ欲望を晒した恐らく、リーダー格の盗賊。
レンがぶっぱなしてくれなければ間一髪間に合わなかったかもしれない。
「なんだと聞かれて素直に答えるわけがないでしょう! その子から離れなさい! でなければ、痛い目を見ますよ!」
レンが再び杖を構え、盗賊達に警告をする。
「まだ仲間が居やがったのか……! だが! お前らこそ動くな! まだ楽しめてないから勿体無ぇが、動けばこいつの命は無いぞ!」
盗賊がいきり立つそれをそのままに、ナイフを少女の首にあてがう。布を巻かれ、口を押さえられたままの少女は、身体を震わせ、涙を浮かべ、呻き声を上げる。
あまり直視をしたくないものをぶら下げた男はその反応に良い気になったのか、舌舐めずりをして少女の涙を指ですくう。
「下衆め……!」
人質に危害が及ぶ可能性を考慮してしまい、レンも杖は構えたままだが、下手に動く事も出来ないでいた。
まさか、本当にこんな状況になっているとは。
欲望に飢えた男の姿に反吐が出そうになる。こんな状況を見てしまえば、余計に助けないわけにはいかなくなった。
「あなたたち、不幸だね。私を不愉快にさせて……」
「黙れ! 余計なお喋りもだ! この女に傷付けられたくなかったら……」
盗賊の口述を最後まで聞くよりも速く、駆け出した私に、盗賊の動揺が走る。
「だから、動くんじゃ……」
「レン、光を!」
盗賊の有り難い忠告は丁寧に無視をして、地面を蹴り出す足に力を込めた。
そして、私の声に合わせるようにレンの杖の先から眩い光が放たれ、盗賊達の目を眩ませた。
それだけ隙が生まれれば充分。
「変身!」
閃光に背に、光に包まれたまま、腰の白色の剣を抜いた。
白刃一閃。
少女にナイフを突き付けていた盗賊の腕が飛ぶ。
二閃。
地面を破裂させるような蹴り上げが汚い欲望を破砕する。
「……解除」
光が収まると同時に、男を失った盗賊が泡を吹き、痙攣を起こしてその場に倒れ込む。それに一拍遅れて、肘から斬り落とされた腕が盗賊の傍らに血を撒き散らしながら落ちた。
そんな状況に気付かれるよりも早く、まだ目の眩んでいる残りの盗賊達を蹴り飛ばし、少女を彼らから引き離す。
「……大丈夫だった?」
「ん、んむぅっ……!??」
よく見たら少女も閃光の影響で目を眩ませていたようだ。唐突に身体を引かれ、それに対して驚いた様子。
「……また抵抗される前に捕縛します」
蹴り飛ばされても意識を失っていなかった盗賊を見て、レンが魔法で作り出した光の鎖で盗賊をそれぞれ捕縛していく。
「アギサ、これを……」
「あぁ、ありがとう。服、破かれちゃってるもんね……」
レンは自分のマントを外し、私の腕に抱かれている少女の身体を隠すように、被せてあげた。
「……よし、これで喋れるでしょ」
少女の口を塞いでいた布を外してあげる。
外すと同時に、少女は口いっぱいの空気を吐き出し、緊張からか息を切らしつつも、口を開いた。
「な、何が起こったっすか!? あなたたち、何者っすか!??」
どうやら、彼女を真っ先に支配したのは困惑らしい。
金属の塊が超速で叩き付けられた男の散華。




