少女の行先
この章のエピローグです。ちょっと短いです。
吹き抜けた風の先に、アギサとレンの二人の姿があった。それは、ガナードとベルルマントと先程まで話していた裏の空き地からは離れた位置に。
「レン、ここは……?」
突然変わった景色に、アギサが問い掛ける。
「ここは王都ですよ。距離にしてみれば、さっきまでの場所からはそんなに離れてません」
「あ、そうなんだ。じゃあ、早速移動しよう。 折角それっぽく立ち去ったのにすぐに見つかっちゃったら格好つかないもんね」
歩き出したアギサに合わせて、レンも同様に歩き出す。
「そうですね。まったく、変な格好つけたがるんですから。まるでお子ちゃまですね」
「お子ちゃま!? レン、私のことお子ちゃまだと思ってるの!?」
「ほんの数十年しか経ってないんですから、私から見れば充分お子ちゃまです! そうでなくてもお子ちゃまですけど……」
「そ、そんなに言わなくても……そんな事言ったら、レンだってお婆ちゃ……」
アギサの言葉が最後まで続けられることは無かった。それは何故か。
アギサですら竦むほどのプレッシャーが、彼女に叩きつけられたのだ。勿論、レンから。
「断じて、私はお婆ちゃんではありません! あくまで、種族的な問題です! 」
「そ、それを言うなら私だって……」
「黙らっしゃい! アギサは例えそれで換算したとしてもお子ちゃまです!」
「そ、そんな……」
ガックリと項垂れるアギサに、つんと顔を逸らすレン。
アギサが怯む程の凄みを出した彼女は、顔を逸らせたままでもアギサからは一定以上離れる事はなかったが、結局アギサが謝るまで口を聞いてはくれなかった。
そうこうしている内に、彼女達は王都の中心からは離れ、外へと向かっていく。
必要なものは買い揃え、白銀の勇者の伝わっている噂も知ることが出来た。どれも、尾鰭がつきまわり、アギサへと到達出来るようなものではなかったが。
「さて、やはり噂は噂としても、どこで情報を掴まれるか分かりません。王都を発ちましょうか」
「……ん、そうだね。王都も結構楽しかったけど、下手な動きは出来ないだろうからね。それに、私ももっと広く世界を見て回りたいし」
やや傾きかけた太陽が照らす道の先を眺めて、その広い世界を想像する。
まだ、ほんの一部しか目にしていないのだ。
「私は私のやりたいようにやる!」
アギサの言葉に、頷くレン。
「そうですね。今はこの世界を見て回りましょう。アギサの力は一箇所に留まるには些か目立ちすぎます」
「それを言うならレンだってそうじゃん」
「分かってますよ。だから、アギサと共に行くんです」
瞳を伏せ、息を吐き、考える。
エルフとして、表には出られないままの生活を長きに渡って続けてきたレンが、対等な関係として付き合うことが出来た、この世界では異質な少女アギサ。
お互い、人の世界で生きるには過ぎた力を持つ者同士。そして、そんな自分を友として信頼してくれた彼女と過ごす生活が、世界に彩を与えてくれた。
もう、一人ではないと。
「そっか、ありがとう!」
そして、この少女の笑顔に惹き込まれた自分がいる。




