彼女は自然そのもの
以前の更新からだいぶ時間が空いてしまいました。
「ふうん? それで、私を追いかけて来たんだ」
ガナードが彼女達、アギサの行方を追っていた経緯を話すと、少し嬉しそうにその人は微笑んで見せた。
敵視しているわけではないということが分かったことも、その中に含まれているのだろうか。
「……まさかあの時庇った男の子がね。あの時は震えて泣いていたくらいなのに」
「そ、それは……! あ、あの時は、俺に力が無かったからであって…………」
アギサはガナードの知らない悪戯な笑みを浮かべて、その日を思い返すように目を閉じる。もう一人の女性は、未だに警戒を完全に解いてはいないようだが。
「こ、これがあの噂の白銀の勇者……?」
目の前には、先程までの擦り切られるようなプレッシャーは消え、白銀の勇者とも呼ばれているであろう人物が、あのガナードを子どものようにからかっているのだ。
全くもって、理解が追いつかない。
「彼女は元々こういう方ですよ」
「……っ!?」
ベルルマントの言葉に答えるかのように、もう一人の女性が浮世離れしたかのような澄んだ声を発する。
気付けば隣にその女性が居たのだ。先程まで、白銀の勇者の隣に居たはずなのに。
「何にも縛られない、自由な人ですよ。あの人は」
女性はベルルマントの内情を知ってか知らずか、言葉を続ける。
それ故に、彼女は自然そのものだと。
しかし、その真意はベルルマントが理解する事は出来なかった。
ハッキリと分かったことと言えば、白銀の勇者は自分が思っていたよりも人間で、人間離れした存在だということである。
「レン、聞きたいことは聞き出せたしそろそろ行く?」
ベルルマント側の話が落ち着くのを待っていたのか、タイミングを合わせたように白銀の勇者が女性に声をかける。
「そうですね。どうやら、本当に敵意があるようではないですし……お暇致しましょう」
白銀の勇者の方では、からかわれにからかわれ続けたのか、ガナードが顔を真っ赤にして悶えている。
面白いものを見逃したかもしれない。と、ベルルマントは思ったものの表には出さずに彼女達の動向を見守る。
「それじゃ、ガナードとベルルマントちゃん、だっけ?」
「は、はい!」
「一応、私も誰かに追われたりもしてるだろうし、私達と会ったことは他言無用でお願いね」
「……分かりました」
彼女はそう言ってはいるが、こんなに飄々とした女性……それも、見るからに自分よりも幼さの残る少女が白銀の勇者の正体だと言っても、おいそれと信じて貰うことは出来ないだろう。
「あっ……! それと、ここで会ったのも何かの縁って事で。アギサ……」
「えっ……?」
立ち去ろうとした白銀の勇者がふと、振り返る
「もし、次に会うことがあったら私のことはアギサって呼んでね。ガナードも」
「うぅ……は、はい」
「はい……!」
彼は相当こっぴどくやられたのか。
まだ顔の赤みが引かないままアギサの言葉に答える。
「私の事はレンとお呼びください。それでは、失礼致します」
女性の言葉と共に打ち付けるような一陣の風が吹き、二人はその場から姿を消してしまった。
「す、凄い風だったな……」
「本当に、何者なの? あの人達…………」
残された二人は、暫く呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「で、何をそんなにからかわれてたの?」
「……忘れてくれ」




