曲がり角でぶつかって
赤髪少年は王都を歩いていた。続くように淡い桃色の髪を揺らして少女も並ぶ。ただ、歩いているわけではなく、その視線は何かを見逃さまいと鋭く動いていた。
「ガナード、本当に探すのですか?」
「あぁ、チェノ婆はああ言っていたけど、どうしてもちゃんと会って話してみたい。それに、王都に居るっていうのは分かったんだ」
「……でも、チェノ婆は手を出すなって」
「命の恩人に手を出すほど落ちぶれちゃいない。話を、聞きたいんだ……俺は」
そう言ってガナードは顔を伏せ、拳を握りしめる。だが、その心中はベルルマントには伝わらない。彼女はそれがもどかしかった。
王国ですら正体を掴めていなかった、白銀の勇者。何が目的かも分からない。その上、軒並み外れた戦闘力を誇ると言われている存在。
彼はそれに会いに行こうと言うのだ。
チェノ婆があれほど取り乱した姿は今まで見たことが無い。それどころから、彼女より圧倒的に上位に立つ魔法使いなど聞いたことも無いのだ。
王国でもトップレベルの魔法使いが、恐れる程の存在。
ベルルマントは、少し恐怖していた。未知の存在に。自分の常識を覆す存在に。
その思考を、恐ろしい想像を振り払うため目を閉じて頭を振る。
それが、いけなかった。
「きゃっ……!?」
「わっ……」
路地の様に、細い道から出てきた人にぶつかってしまったのだ。慌てて勢いを殺そうとしたベルルマントは、その場に尻餅をつく形で座り込んでしまう。
「ベル?」
先を歩いていたガナードもその異変に気付く。
「あ、えっと……大丈夫ですか?」
ぶつかられた人物、その体格と声色からして少女だろう。長い黒髪を揺らして振り返った少女は、ベルルマントへ手を差しのべる。
その姿を見て、彼女は、動けなくなってしまった。
まるで、時が止まってしまったかのように。目を見開き、焦点の合わない視線で手を差しのべる少女の顔を見てしまった。
「アギサ、大丈夫ですか?」
遅れて、細い道から出てきた女性を見て、それが事実なのだと確信してしまう。
今、ベルルマントに手を差し伸べているのが白銀の勇者であり、遅れて出てきた女性が、チェノ婆をも凌駕する魔法の使い手なのだと。
「あ、あのっ…!あ、あなっ……た……たち……は…………!?」
震える声で、掠れた声しか出ない。
「……えっと、大丈夫? ほら、立って。怪我とかしてない?」
とうの勇者本人は、ベルルマントの様子を不思議に思いながらも手をやや強引に掴んで立ち上がらせる。
「ベル! 大丈夫か?」
その勇者の後方から、ガナードが異常な様子のベルルマントに声を掛ける。
ガナードは、すぐに動こうとした。だが、動けなかった。白銀の勇者の隣に立つ、女性の視線がガナードをその場に縛り付けるように、威圧していたのだ。
「なるほど……そういうわけですか。アギサ、積もる話もありますし、少し人気の無い場所へ移動しましょう。震える彼女も、そちらの少年も……着いて来てください」
威圧感が消え、微笑む女性に底知れぬ恐怖がガナードを襲う。
ベルルマントに至っては、視線も定まらず、ただ震えるばかりである。
「……どういう状況なのよ、これ」
ただ、白銀の勇者であるアギサだけは、この状況を理解できないままであった。
謎の女性、レンを先頭にアギサ、ガナードと彼に支えられたベルルマントが王都の外れへと進んでいく。
ガナードは、その間も彼女達の動きを見ていたが、謎の女性には一切隙が無く、逆に白銀の勇者には隙しかなかった。
だが、何も出来ない。
それだけの力量が、そこにはあったのだ。




