ヴェギアの苦悩
アギルゼス王国へと続く大通りに竜種が出現した。その報告は城内を震撼させた。
ここ数百年姿を表さなかった竜種が何故、突然姿を現したのか。原因は分からない。
しかし、竜種は真っ直ぐに王都へ向けて移動しており、既に一部の兵士達が足止めのために戦闘を開始したという。
それと同時に大通りの封鎖。
幸い、行商の者の通りも少なくそれ自体は容易に済んだという。
だが、出現したタイミングが悪い。
王都には現状、魔鎧を扱える兵士はヴェギアとノルマルドしかいない。
騎士団を向かわせたものの、彼らでは実力不足で全滅こそしなくても竜種を打ち倒すことは難しいだろう。
ヴェギアは一人、静かに頭を悩ませる。
この約一年、不明瞭な事が起こりすぎている。人工魔鎧の蔓延に、白銀の勇者。どちらも真実にすら到達できてすらいないのに、伝説とまで言われた竜種の幼体まで出現する始末。
いったいこの王都で、いや、この世界で何が起こっているのだ。
何か良くない事の起こる前触れなのではないか。そう思わずにはいられなかった。
……。
騎士団が討伐に向かってそう掛からないうちに新しく情報が入ってくる。伝令の者は息を切らし、告げる。それは、聞いた者達をざわめかせるのには充分な内容だった。
突如森の中から出現した白銀の勇者が竜種の首を切り落として、再び森消えた。そして、消えた場所から発生した緑色の光が負傷した騎士達の傷を癒した、と。
何故、そうも都合良く白銀の勇者が現れたのか。
白銀の勇者は竜種の発生を予期していたのか?
騎士達を癒したのは何故か、やはり敵ではないのか?
なるほど、一部で白銀の勇者を神と崇める者達が増え始めているのも肯けるかもしれない。
謎が多過ぎる上に、現状助けられてしかいないのだ。
本当に、そういう存在なのではないかと信じ出している者が増えても、おかしくはない。
神の使いか、或いは……。
白銀の勇者は語らない。
そして、その姿を見た誰もが共通して感じている事があるという。
白銀の勇者からは生も死も感じられない、と。
生きてもいなければ、死んでもいない。それはいったいどういうことなのか。
ヴェギアは頭を悩ませる。
白銀の勇者が何か行動を起こす度に、新たに調べなくてはいけないことが増えるのだ。
そして、それは一向に終わる気配を見せない。
白銀の勇者。
調べるほどに謎が増えていくばかりなのだ。
上から命令され、下からは新しい情報を受け、ヴェギアは既にオーバーワークと言っても過言ではない。
が、そんなものは関係ないのだ。それが命令なのだから。
来る日も来る日も調べ続ける。
ヴェギアの苦悩はまだ、始まったばかりなのである。




