展開!ソードウェポン
そろそろ日が沈みそうだ。時間は分からないけど、日暮れの間近、ようやく人の痕跡を発見する事が出来た。
夕焼けに照らされて、小さなキャンプ跡が私の視界に入り込む。だけれど、人の姿は無い。残念。
近付いてみると、どうやらまだ新しいようにも見える。まだ、そんなに日が経ってないのか、薪の近くに落ちている何かの肉の欠片に虫が集っている。
しかし、困った。
私はアウトドアな趣味は持っていなかったし、キャンプなんて、中学校の林間学校以来なのだ。さっぱり分からない。そして食べるものもない。
ここに誰か居てくれたらな。そう思いつつ、どうにか、残っている薪を集めて火を……火を…………。
どうやって火を起こせばいいんだろう?
既に日はほとんど沈み、辺りも暗くなってきているというのに。こんな場所に一人ぽつんとなんて、凄く寂しい。
火があれば、少しは野生動物を近付けさせない事が出来るかもしれないのだが、この世界でそれが通用してくれるのかは分からない。
元の世界と、どれくらい違うのだろう。
完全に為す術もなく立ち尽くしていると、急に視界に影が増した。
そして、直後に頭上から聞こえたのは、ライオンや虎が可愛く見えてくるほど重く、低い、生き物の唸り声。
ひたり。と、その化け物の涎が肩に垂れてきた瞬間、私の体は跳ねるようにその場から飛び退いていた。
圧倒的な恐怖。
私が先まで居た場所に、化け物の腕が虚空を裂いていた。
動かなかったら、危なかった。
化け物は、薄暗くてハッキリとした容姿は見えないが、全身を長い毛で覆われた3mはあろうかという巨大な猿のような姿をしていた。だが、口からは巨大な犬歯がはみ出し、腕は体に比べて大きく、鉄板すらも貫きそうな巨大な爪を持っていた。
まさか、異世界で初めて出会う生き物がこんな化け物なんて……。
それよりも、この状況をどうするべきか。
真っ先に思い付いたのは、逃げるという選択肢。こんなのと戦う? 無理無理。私は戦った経験なんて今まで一度も無いんだから。
幸い、様子見をしているのか、化け猿は感情の分からない顔でこちらをじっと見つめている。
私はまだ移動の時にしていた変身を解いてはいない。もし、解いていたらと思うとゾッとする……。
やっぱり、逃げた方がいいのかな? 私には鎧はあっても武器は無いというのに!
『ソードウェポン、ロック解除しました。右腕部より展開可能です』
頭の中に、機械的な声が聞こえた。
ソードウェポン? つまり、武器? 私に戦えと?
頭の中に聞こえた声を否定するように頭を振って、気持ちを切り替える。
その瞬間、化け猿が動いた。
動いた私に反応するように、巨体からは想像もできない程の速度で、その巨大な爪を振り下ろす。
咄嗟に、体を守ろうと私の腕が上がる。
普通に考えたら、それこそ無駄な抵抗だと言えるだろう。だが、そんな想像とは何処吹く風というように、結果は違った。
化け猿がけたたましく悲鳴を上げた。
そして、辺りに飛び散る暗い液体。
咄嗟に振り上げた私の腕、から伸びる、飾り気の無い剣が、化け猿の腕を爪ごと切り裂き、切断していたのだ。
なにこれ。
そして、液体から少し遅れて、化け猿の腕が地面へと落ちた。
先程まで強者の風格で唸っていた猿は、体を丸め、腕を抑え、怯えるように震えていた。
この瞬間、勝敗は決まったのだと思う。
未だに状況を理解出来ない私と、怯える猿という謎の組み合わせをおいてけぼりにして。




