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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
絡み合う物語
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心身共に

 燃え上がる蒼炎を瞳に宿し、魔力の流れを見る事が出来る者。だが、それは魔眼と呼ばれたもの全てに共通する能力である。

 ガナードの持つ魔眼の秘められた力はまだ分からない。それでも、魔力の流れが見えるという力だけでも驚異となるのだ。それ故、魔眼を持つものはかつて恐れられていた。


 「これが、魔眼の力だっていうのか……?」


 見えない力が見えている。意識をしてみれば、それが異常な事だと気付かされる。見えない力だと理解しているのに、それを見ているのだ。その矛盾が、ハッキリとその目が映し出すのだ。

 竜の魔法も、見えていた何かに突き動かされるように地面が形を変えていた。そして、今回もノルマルドを取り巻く力から、穿った地面の動きまで確かに見えていた。見えていたからこそ、その力を逸らすことが出来たのだ。


 「確かに、面白い小童だ。ベルが気に入るのも頷ける」


 まるで自分の力に気付いてもいなかったガナードに、満足したような笑みを浮かべるノルマルド。

 既に先程まで放っていた闘気は感じられない。


 


 「これが……魔力の、流れ……?」


 意識をすると途端に感じる世界に満ちた魔力の奔流。地の奥深くに根を張る強力な魔力、草木に宿る僅かな魔力、人間の体を循環する魔力。その全てがガナードの視界を埋め尽くす。

 その膨大な情報量に、体が危機を感じたのか頭痛と共にそれらが見えなくなる。


 「……その様子だと、今日はもう戦えはせんな」


 心底残念そうに言うノルマルド。戦闘狂である。

 突然ガナードに奇襲を仕掛けたのも、ベルルマントが道中の活躍劇を興奮混じりにやや誇張して伝えた事が原因でもあったり。

 可能性としてはあの場でガナードが避けきれずに、直視できないような惨状が生まれていた可能性も否定出来ない。最も、ガナードはそれを知る由もないのだが。


 意識する事で、突然その力が溢れ出してしまったガナードには当然力のコントロールは出来ない。激流の中を流れに逆らって泳ぐようなものだ。急激に疲労感に襲われ、息も絶え絶えにその場に崩れ落ちる。


 「ガナード! ちょっとパパ、突然襲い掛かるなんて何考えてるの!? 馬鹿じゃないの!? そんなんだからパパと一緒に居ると疲れるのよ、まったく!!」


 娘、大激怒である。自らの命の恩人として招き入れた客を少し強そうだという理由で襲い掛かる父……怒るのも当然の事だろう。


 ノルマルドは先程までの強者の風格はすっかり消え失せ、娘の言葉にショックを隠せないでいた。

 まさか、あの時も……いや、しかし……などと頭を抱えている。他にも思い当たるフシがあるのか。


 そんな父親には目もくれず、ベルルマントは息も荒く動けずにいるガナードの元へと駆け寄った。


 筋骨隆々の門番ビルドは、客室の突き破られた窓の修復作業に既に入っていた。手馴れた様子だ。それだけ、似た状況を体験しているのだろうか。


 これが名の知れた大貴族の屋敷での出来事なのだ。



 その後、どうにか立ち直ったノルマルドに担がれてガナードは屋敷の来客用の個室へと運ばれる事となった。


 「そういえば、お前さん魔鎧は使わんのか?」


 使えるのが当然と言うように問いかけるノルマルドに、ガナードは黙って首を振る。


 「まだ鍛錬が足りんか。なに、近いうちに扱えるようにはなるだろう」


 「俺が……魔鎧を…………?」


 「誰でも魔鎧を扱えるようにはなる。俗人共の間では一握りの天才だ選ばれし者だなんだと持て囃されておるが、そんなもの自らの力を信じ切れぬ奴らの遠吠えよ」


 「自分を、信じる……」


 自分にも魔鎧が扱えるようになるのだろうか。自分を信じるというのは、簡単ではない。

 


 「自分の力に耐え、強い心を持つものに魔鎧は自ずと現れる。だが、その力は知っておるだろう? 魔鎧を持つものはその殆どがそれを使おうとはせん。己の手の内を普段から見せ続ける馬鹿でもなければ、扱える事を隠しておるだろうよ」


 「パパ、それ本当なの?」


 ガナードより先に食いついたのはベルルマントであった。

 顎に手を当て、暫し考える素振りを見せるノルマルドは、ゆっくりと目を開いて語り出す。

 少し長くなるが、と前置きを置いて。


 「む……ベルにも話してはおらんかったか。まぁ、丁度いい頃合ではあるか……王国もな、表向きは騎士団を最高戦力として扱ってはおる。確かに、騎士団は実力派揃いなのは間違いない。だが、それはあくまで一般的な戦闘力だけで見た場合なのだ。軍に入っているからといえ、全員が全員騎士団の連中のように自らの力量を示す事に拘りがあるわけではない。それに、騎士団には戦闘演習で好成績の者が選ばられる。つまり、そこで手を抜けば如何なる実力者であろうと騎士団へ選ばれる事はないのだ。ワシの見ただけでも、魔鎧を扱える者は軍内で知られている以上に隠れた実力を持つものもいるだろう。それに、ワシの他にこの家で魔鎧を扱える者に門番のビルド・ビラスタがおるからな。安心して留守を任せられるのだ」


 ノルマルドの言う事が正しければ、魔鎧を持つものは少なくはないというのだ。門番のビルドまでが魔鎧を扱える。その事実に目を見開くのはベルルマントだ。長年同じ屋敷で暮らしていて、一度もそのような様子を見せず、ただ門を守っていた彼が魔鎧を扱えるという。驚くのも無理はないのかもしれない。


 魔鎧。


 人の持つ、心の力。

 自らが欲する力を形作ると言われている。


 力を手にした時、人はどのように心を動かすのだろう。ガナードは魔鎧を自分が扱えるのか、頭を悩ませ思考する。

 が、直後に部屋に着きベッドに放り投げられた事で思考は強制的に中断させられたのだった。

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