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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
絡み合う物語
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魔眼

 豪勢な客室へと通されたガナードは、その身を固めていた。当然だ、彼はしがない農村生まれなのだ。街へ入るのも今回が初めてだったりもする。それが、村でも名前は聞いた事はあろうかという大貴族の屋敷へと招かれたのだ。

 本人は表面だけは辛うじて取り繕ってはいるが、内心はガチガチに緊張している。


 口数が少なくなっているのもそれが理由である。口を開けば、ボロが出るから。


 屋敷の主であるノルマルド・メイビスをベルルマントが呼びに向かって暫く。門番であるビルド・ビラスターは静かにガナードの動きに気を配っている。


 客室の入口に、複数人分の足音が近付いてくる。

 だが、扉が開かれると同時に、一つの影がガナードへと襲い掛かった。



 「うわっ……!?」


 黒い装束に身を包み、顔も分からない不審な人物が、先までガナードが座っていた空間を切り裂く。緊張していた体で、辛うじて飛び上がったガナードは、黒装束へと空中で回し蹴りを放つ。

 だが、それは容易く腕で防がれてしまう。


 「その程度でワシに一撃を入れられるとでも思ったか! 小童!!」


 「しまっ……!? くっ、ぁぁっ……!!」


 足首を万力のような力で掴まれ、大きく振り回されてガナードは客室のガラスを突き破り、屋敷の広い庭へと投げ飛ばされてしまう。


 満足に受身も取れず、背中から地面へと叩きつけられ、肺の中の空気が瞬間的に押し出される。

 苦痛に顔を歪めながらも、瞬時にその場を飛び退き、飛来した剣を躱す。



 黒装束は、破られた窓から飛び出し、庭へと舞い降りた。


 「アンタ、一体何者なんだ……」


 急な攻撃にガナードは、漸く自らの武器である白色の剣を抜いた。目の前に居る存在が、自分よりも遥かに強大だと全身から伝わる感覚が発しているのだ。


 只者ではない。ガナードが剣を構えたと同時に、黒装束はゆっくりと動いた。


 「……一歩、己が信じた道を行き」


 「……っ!?」


 その動きは、ガナードへ向けて、ただ歩くというだけのもの。にも関わらず、黒装束の纏う何かが激変した。


 「……二歩、先人の歩みは後世の道となる」


 黒装束を中心に、渦を巻くように。

 ガナードが恐怖を感じる程の、何かが。


 「……三歩、我こそ明日へと道を続かせる者也。その目に焼き付けよ! メイビスの力を!」



 渦巻く力は黒装束の内へと吸い込まれ、更に膨張する。大気を震わせるかのような圧倒的な存在感。それは、ガナードへと向けられている。


 「魔鎧着装……地纏」


 その瞬間、放出された力が男の纏う黒装束を内側から弾けるように吹き飛ばした。

 男が、姿を現す。

 その鋭い眼光にガナードは身震いする。

 かつて、数多の戦場を駆け抜け、多くの人々の命を背負い、戦い抜いた老練なる兵士。


 それこそノルマルド・メイビス。大地の化身と恐れられた男だった。


 男が脚に纏うのは大地。地面こそが彼の武器であり、盾である。王国でも鉄壁を誇る魔鎧なのだ。


 「パパ 、何やってるの!?」


 遅れて駆けつけたベルルマントは、父が魔鎧を展開させている事に気付き、更に驚愕する。


 「この男、ワシの一撃を躱しおったからな。少し、興味が湧いたのよ……のぅ?」


 殺気、とは違う。

 ガナードへと叩き付けられているのは圧倒的なまでの闘気。ノルマルドとの実力差から生まれるプレッシャーなのだ。


 それだけで身が竦む。

 だが、ガナードは、この状況で笑っていた。


 「ほう……?」


 それを興味深そうにノルマルドも口角を釣り上げる。


 「やめて!!」



 ベルルマントの叫びは父、ノルマルドには届かない。

 突き出す腕の勢いをそのままに、螺旋状に渦巻く土の槍が、ガナードへと襲い掛かる。


 鎧が砕かれる音と共に血が飛び散り、ガナードの身体は衝撃に吹き飛ばされてしまった。

 その光景を見たベルルマントの悲鳴が響き渡る。


 「……やはり、直撃を避けおったか」


 落ち着いた様子で吹き飛ばされたガナードの様子を見やる。ノルマルドが狙った筈の場所に傷一つ付ける事はできていなかった。

 それどころか、僅かに掠めた程度。


 「……いきなり、この挨拶は酷すぎるんじゃあないか?」


 「ガナード、良かった……!」


 脇腹を抑え、ガナードはゆっくりと立ち上がる。生身の体で魔鎧の一撃を受け、立ち上がったのだ。


 その姿に、ベルルマントは胸を撫で下ろす。

 だが、その安心も束の間、彼女はガナードの異変に気が付いてしまった。



 青白く燃えるような魔力を纏っているのだ。ガナードの瞳が。薄暗い庭の中に、淡く輝いていた。


 「……やはり、その目。魔力の流れが見えておるな? よもや、この目で実物を拝む日が来ようとはな」


 その瞳を持つものは稀である。

 それは、かつて魔眼と呼ばれた今では失われたとされている。

 だが、ガナードはその魔眼を使用している。


 それは、ガナード本人も気付いていなかった事であった。

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