薬のお値段
先日、この小説の第4部。
展開! ソードウェポンのページの後書きに自作のイラストを挿入しました。
落書き程度のお粗末なものですが、アギサのスタンダード状態の魔鎧を描いています。
商業地区には、たくさんのお店が立ち並び、まだ朝の早い時間だというのに賑わっていた。
武器屋、道具屋、防具屋、靴屋、服屋。このあたりは該当する店の数も多い。それだけ需要もある商品ということなのだろう。他店より質を、値段を、サービスを、より良いものを提供する商人たちにとって、ここが彼らの戦場なのだろう。
とにかく、気迫が凄い。
そんな雰囲気にレン共々気圧されつつ、目に入った薬師の店へと入った。
「いらっしゃい……何の用だね」
出迎えるのは、高齢の女性。痩せこけた頬にボサボサの髪、黒いローブを見に纏う見るからに魔女という言葉が似合いそうな人。きっとそういう人がこのような店を構えている定番の人だと思った。
けれど、店内で商品を並べていたのは中肉中背の口髭を蓄えた白髪混じりのおじさんだった。
「あの、道具の買い取りをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「買い取りか……少々待って貰えるかい? おーい! お客さんだ、ルベル! おい! ルベル!」
お店の奥に向かって、大声でルベルという人物を呼び出す。だが、店の奥は静まり返っている。
「あぁ? お客さん、申し訳ねえ。買い取りを担当しているヤツが来やがらねぇ……ルベルッ!! 仕事だ早く来い!!!!」
更に大音量で店の奥へと呼び掛ける。
暫らくすると、慌ただしい足音と共に一人の青年が店内に姿を現した。
「チンタラしてんな! 朝から気を抜いてるんじゃねぇぞ! お客さんがこの間に帰ってしまったら店を構えるなんて夢のまた夢だぞ!」
「す、すみません! お嬢さん方がお客様ですか? って、あの……大丈夫ですか?」
この青年、道具屋修行中なのか店主であろうおじさんに、呼ばれて出てくるまでの時間に納得されなかったようだ。確かに、中には帰ってしまう人が居たとしても不思議ではない。
その間私は見たことも無い道具を眺めていて、好奇心に負けて置いてある不思議な形の箱を触ろうとして、おじさんの声に驚き、体が硬直した際に、触れようとした道具がびっくり箱系統の玩具だったらしく、飛び出した白塗りの顔に更に驚かせられ、尻餅をついていた。何で薬屋にこんなものが。
隣ではその一部始終を見ていたレンが口元を隠して笑いを堪えている。
「だ、大丈夫です……!」
そう答えて立ち上がる。
青年が出てきた時、丁度私が尻餅をついた。お恥ずかしいところを見られてしまった。
「えっと、道具買い取りをお願いしたくて」
「うちは薬しか扱っていないよ、それでいいのかい?」
ルベルと呼ばれていた青年は、確認を促す。それに頷いて答えるレン。
「品物を見せてくれ」
ルベルさんの言葉に、レンがローブの裏からいくつかの小瓶を取り出す。卓上に並べられた幾つかの小瓶。それをルベルさんは手に取って、眺める。
「これは……! こんな、純度を作り出せるものなのか……!?」
瓶の蓋を開けて、においを嗅いだルベルさんは驚愕に目を見開いた。なるほど、一般的に知られているものより高純度の薬なのか。ということは、売却用じゃなくて、私用のあの薬は最早エルフの秘薬レベルのものなのだろう。
とんでもないものを知ってしまったな、などと考えている間に、おじさんがルベルさんの隣へと移動していた。
「……俺も、ここまでの純度の回復薬は数える程しか見たことがない。それも、王城の中でだけだ」
同様に、薬の確認をしたおじさんは、そっと小瓶戻した。おじさん昔王城で働いてたのかな? ルベルさんの表情を見る限り、衝撃のカミングアウトだったのだろう。
「……買い取れますか?」
レンの問い掛けに、暫くの沈黙が走る。
確かに王城でも稀に見かけるかどうかの品物を、一般の人が利用するような場所で買い取るというのは、やはり難しいものがあるのだろうか。
「……一つにつき、金貨一枚でどうだ?」
「それはいくらなんでも……!」
「いいですよ。金貨一枚ですね」
「おいおい……マジかよ」
微笑みを浮かべて同意したレンに対して、値段を提示したおじさん側がその表情を驚きに染めた。
私はというと、未だにこちらでの物の価値観というものに慣れず、村に素材などを売りに行った時は、お金じゃなくて物々交換をしていたな……と、少し懐かしい気持ちを感じていた。
とどのつまり、話についていけない。
「これで金貨数枚になるのなら、私としては願ったり叶ったりですよ。その代わり、薬についての詮索は受け付けませんので」
「あ、おい……!」
呼び止められるのも何処吹く風。レンはそう言って差し出されていた金貨数枚を手に取り、瓶を置いたまま私の元へと戻ってくる。その顔に不満は感じられなかった。
「終わり?」
「はい、お終いです。さ、お買い物にでも行きましょうか」
お買い物。そういえば朝ご飯も食べてなかったから少しお腹空いた。食べようと思えば袋の中にある果実があるけれども。これも何処かで売らないとなぁ。
「ありがとうございました。失礼しまーす」
一礼し、呆然とする薬師の2人を他所に、私達はお店を後にする。この商業地区には他にどんなお店があるかな。
とりあえず、優先するならご飯。
街のご飯を食べてみたいです。デザートも気になります。




