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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
絡み合う物語
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空の覗き穴

 温かい。分かってる、これは人肌の温もり。ふわりと、柔らかくしなやかな腕に抱かれて、柔らかい温もりに包まれている。

 そんな、目覚めだった。


 「…………レン」


 私を枕の如く抱いて寝ている者へと呼び掛ける。昨日眠りに落ちた時はちゃんと隣で寝ていたんだけれどなぁ……


 窓から差し込む朝日が、部屋へと差し込みろうそくの照明だけだった昨日よりも室内を明るくしている。


 「レン、起きて。朝だよ」


 未だに寝息をたてる彼女の頬を優しく叩く。


 「んぅ……あと、一年…………」


 「一年って……」


 ……レンの寿命を考えると、本当に寝てしまってそうだから、突拍子もない冗談には聞こえない。

 けれど、今日は街を見て回らないと行けないので、レンの体を揺すって起こそうと試みる。


 「ほーら、起きて! レン起きろー!」


 「ひゃっ……!? え、えっと……アギサ…?」


 耳元で声を出したのが効いたのか、レンが耳と肩を跳ね上がらせて目を覚ました。レンの長い耳は、普段よりも大きく垂れている。やっぱり動くんだ、それ。


 「やっと起きた。今日は街を見て回るんでしょう? 早く支度しなきゃ」


 「あー……そうでしたねぇ。今日は何だか寝心地が良くて、ついついねむりすぎちゃいましたぁ」


 まだ眠たいのか、少しぽやっとした表情で、言葉もいつもより間延びしている。普段もあまり引き締まった表情をしているわけではないけれど、寝起きのレンの表情は毎回結構な確率で緩んでいる。今日はその中でもトップクラスに緩んでいるみたいだ。


 やはり、お布団か。

 私もお布団を名残惜しみつつも、抜け出し、服を着て軽く身体を解して、防具を装着する。


 レンも同様に着替え、ローブを身に纏った。




 …………。





 宿屋の外に出ると、朝の澄んだ日差しと空気が残っていた眠気を吹き飛ばしていく。行き交う人々は既に少なくはなく、この街の活気は留まるところを知らない。


 「先に邪魔なこの荷物売りに行こうか。持っていても邪魔になるだけだし」


 「そうですね。この先が商業地区のようですし。見て回りながらそうしましょうか」



 人混みの流れに入り込み、その先へと向かう。こっちの世界で、こんなにたくさんの人間を見たのはここが初めてかもしれない。もう、村とは比べ物にならないくらい広いのだ。


 広大な土地に広がるアギルゼス王都。上空からでもなければ、その全容を見る事は出来ないだろう。それ程までに広い。



 「ん……?」


 王都の喧騒の中、何か不思議な感覚に私は襲われた。不快……ではないが、何かに、誰かに見られているようなそんな感覚。


 「アギサ……? これは……!?」


 立ち止まった私に疑問を持ち、レンが私に触れた瞬間彼女の表情が変わった。もしかしたら、私と同じ感覚を体験したのかもしれない。


 まるで、上空にある透明な眼から、覗かれているような……不思議な感覚。



 私とレンはほぼ同時に、その違和感を発する方向へと視線を向けた。


 「……見えました。排除します」


 レンはそれだけ言うと、その方向へと指を向ける。それと同時に、感じていた違和感は消失した。


 「……レン、いまのは?」


 「恐らく、水晶玉を使った透視魔法の一種だと思います。占い師が良く使うものです」


 水晶玉。なんとなく、どんなものかイメージはできた。水晶玉はやはり、魔法の補助として使われているのか。



 「けど、どうしてそれが私を……? いや、まぁ、うん……心当たりが無い事は無いけどさ」


 白銀の勇者とか白銀の勇者とか白銀の勇者とか。心当たりはいっぱいあった。

 けれど、それを知るレンは首を振る。


 「あれは、ハッキリと相手の顔をイメージ出来なければ発動することが出来ません。それに、もしそのような理由で見られていたとしたら、もっと早くに使われていることでしょう」


 なるほど。言われてみれば確かにそうだ。今まであんな感覚、感じた事も無いし。

 けれども、それはそれで疑問は残る。


 「私の顔を知る誰かが、あの魔法で今私を見ていた……? ちょっと、これの方が怖いんだけど。心当たりが無い方が凄く怖いんだけど」


 どんな理由で見られているのか、見られているというのが分かってしまっただけに、余計に恐ろしい。それに、タイミングによっては他人に見られたくない姿を見られる可能性がある魔法。

 覗き魔法とは感心しないなぁ。


 「そうですね……対抗魔法をアギサに掛けておきます。簡単なものですので、力を持つ魔法使い相手だと突破されてしまうかもしれませんが」


 レンが私の額に手を当て、何かを小さく呟く。


 「はい、終わりです。無駄に時間取られてしまいましたね……行きましょうか」


 特に何かをされたという感覚は無かった。

 触られた額に触れてみるけれど、変わっている事は特に感じられない。


 まぁ、レンが使う魔法がよく分からないのは今に始まったことではないし。



 私は何故かレンに手を引かれつつ、商業地区へと向かっていった。


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