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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
絡み合う物語
31/65

その瞳に映るものは

 少年ガナードは、王都へと続く大通りをメイビス家の娘であるベルルマントの護衛として歩いていた。

 あの襲撃からは何事も無く、この大通りへと辿り付くことが出来た。


 しかし、順調に思えたこの道も、馬車を引く馬が歩みを止めた事で全員に緊張が走る事となった。


 「……どうしたのですか?」


 ベルルマントは護衛の兵士に問い掛ける。


 「分かりません。ですが、仕切りに何かを気にしています……恐らく、この先に何かあるのでしょう」


 護衛の兵士、残った内の一人ラドが馬を宥めつつ答える。

 馬はそれでも、なかなか鎮まらない。


 いったい、この先に何があるのか。

 このままでは進む事は出来ない。この場から迂回するルートも、森の中を通らなければいけないのだ。それにはやはり、危険が伴う。


 「……だったら、俺が見てこようか。多分、足ならこの中で一番だろうし」


 「ガナード……」


 「この先に何があるのか見てくるだけだ。俺も危険なのは嫌だからな」


 このまま行かせてもいいものか。もし、戦闘が起こっていたり、強力なモンスターが出現していた場合は……と、ベルルマントの思考は止まらない。

 むざむざ危険な場所には行かせたくはない。というのが、本音である。

 命を救われて、まだ何も返す事が出来ていないのだ。そんなものは、ベルルマントの名において許す事が出来ない。



 だが、この場でじっとしているわけにもいかない。


 ラドに瞳で問い掛けると、静かに頷く。同様に、後方の警戒をしていたクラムも同じように頷いた。


 「それでは、ガナード……頼みましたよ」


 「任せておけ!」


 その言葉を待っていたとばかりに、ガナードは駆け出した。振り返る事もせず。

 遠ざかる背中に、憂いを帯びた表情で、ベルルマントは眺めている事しかできなかった。




 一一一一一。




 暫く走ると、どうやらこの先で戦闘が行われているという事が、伝わる音で感じ取ることが出来た。


 明らかな異常として、大通りのど真ん中に空いた巨大な穴。そこから何かが王都へと向けて這い出して来たようで、通りの石畳は何かの通ったと思われる場所だけヒビ割れ引き剥がされている。



 この先に何が待ち受けているのか。


 森の境目へ、すぐに姿を隠せるように慎重に進むと、それは現れた。


 竜だ。


 ガナードも、村の言い伝えで何度か耳にした事がある。圧倒的な威圧感を放つそれは、視線を合わせなくても身が竦んでしまう。

 それだけ、秘めている力を感じさせるのだ。


 だが、それと相対するはアギルゼス王国の騎士達。攻撃一つ一つを見極め、竜に攻撃を続け、優勢に立っているかのように思えた。



 「嘘、だろ……!?」


 思わず言葉が漏れる。

 竜から揺らぐ何かが地面へと流れ出した次の瞬間、その揺らぎが形を作り、地面を動かし騎士達を襲ったのだ。

 ガナードは自分の目を疑ったが、突き出す地面は次々と騎士達へと襲いかかってゆく。


 竜の操る魔法に、騎士達は壊滅的な打撃を受けた。


 それだけでも竜の優位は確定していた。だが、事態は更に絶望的な物へと変わってゆく。

 空間が歪む程の膨大な魔力が、竜の口内へと蓄積されてゆく。


 あれだけの魔力が解放されれば、この通りを飲み込んで余りある威力となるだろう。果ては、この先の王都まで達したとしてもおかしくはない。


 誰もが絶望したと思われた時。そんな、刹那のタイミングで、その人は現れた。


 通りを挟んだ反対側の森の中から、一直線に光る軌跡を残して。竜の硬い外殻に覆われたその首を、一撃の元に落としたのだ。


 白銀の勇者。


 かつて、村で自分を救ってくれた時と同じあの背中だ。纏う雰囲気は変わらない。

 誰かの絶望を感じて、その場に現れるかのように。人の心にその姿を焼き付かせる。絶望を覆す存在。


 ガナードが求め、目指す、偉大なる存在。


 感動に打ちひしがれるガナードに気付く事はなく、白銀の勇者は再び森へと姿を眩ませた。

 緑色の、優しい光を残して。




 一一一一。



 それから、騎士達が行動を開始したのを確認してガナードはベルルマントの元へと戻った。

 そして、この先にある大穴と、竜。そして白銀の勇者の経緯を簡単に説明する。


 「……白銀の勇者。私も、噂だけは耳に挟んだ事があります」


 既に、王都ではその存在の真偽について様々な議論が交わされていた。

 中には当然否定的な者も少なくはない。

 その理由の一つに、噂が流れ出して一年。一度も王都近隣でその存在が確認された事が無かったという事。権力者の間ではそれが否定する、一番の理由だったのだ。


 そうでなければ、辺境の村から広がった噂に尾ひれがついた取るに足りないただの噂だと切り捨てる事が出来たから。


 当然貴族であるベルルマントにもその話は伝わっている。メイビス家としては、否定的ではなかったようだが、存在が疑っていなかったわけでもない。

 だとすれば、この目で竜を確かめなければならない


 「戦いが終わっているのなら進みましょう。この先には騎士もいらっしゃるようですし、安全は確保されます」


 ベルルマントの言葉に従い。馬は歩き出す。

 そこには先程まで不安にかられていた姿は感じられなかった。

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