王都へ
森の中へと飛び込んだ私を確認すると、レンは小さく何かを呟き、指先から緑色の光を彼等の元へと飛ばした。
そして、振り返り駆け寄ってくる。
ぷしゅーっ。
ブースターを使用した反動なのか、動きを止めた私から水蒸気と共に排熱が行われた。これを見ると、途端に生身という感じがしなくなる。実際に生身ではないのだけど。
完全に向こう側からこちらが見えない位置まで移動して、変身を解く。
「……んー?」
「どうしたの、レン。私、そんなに変かな?」
排熱を行う私を見て、レンが疑問符を周囲に浮かべながら首を傾げる。
「いや、そうじゃない……こともないですけど。なんだか、そういう白い煙を吹き出す光景、何処かで見たことがあるような無いような気がしまして。だけど……うーん、思い出せません」
レンは飛び交う疑問符をかき消すように首を振る。
こんな風に湯気を吹き出すものなんて、私はヤカンとか機関車とかそういうものしか思い浮かばない。ここで、それが存在するのかは知らないけれど。
移動しながらも暫く考え込んでいたレンだったが、結局思い出す事はできなかったみたいだ。長い時の記憶全部を覚えてるなんて、確かに無理があるよね。その中で既視感があっても不思議ではない、のかな。
「そういえば、レンがさっき使ってた魔法で騎士の人達怪我が治ってたね」
「長年傷薬の調合を繰り返してたら、魔法と混ぜる事が出来たんですよ。私の生成した薬に魔力を込めて放ったんです」
回復魔法のようなものがあると思っていたけれど、私がイメージしていたものとは違うみたいだ。
「私の薬が良く効くのはですね、薬の調合を行う時に微弱ながらも私の魔力を染み込ませて作っているんですよ」
「もしかして、それが薬の効果を高めてたりするの?」
「そういう事です。なので、私の薬は私の魔力を帯びているんです。心の安らぎの魔法に、私の薬を混ぜ込んだのが、さっきの緑色の光の正体なのです」
魔法というのは、やっぱり私には理解が及ばないものになるのだろうか。少なくとも、レンの話から薬と魔法の相乗効果というものが働いていたのだろうと思う。
「このまま森を進んで、通りから人の気配が少ない場所があったらそこから出よう」
「そうですね。あの騒ぎで少しは人も減っているようですし」
「途中で山菜とかそういうものを少し採っておけば、森の方から出てきたっていう理由つけにもなるかもしれない」
私はそう言って、視線を正面へと戻した。
先の方に見えたのは、何度もお世話になっている柔らかく甘い果実を付けた木があった。
決してこれが視界に入って思いついた訳では無い。
「……本当にアギサは、なんというか。良い意味で欲望に忠実というか……何なんでしょう?」
私に聞かないで欲しい。
レンに呆れられた口調で言われたのも、きっと気の所為なのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
甘いものは私に味わわれてしまえばいいのよ。
……。
それはさておき、怪しまれない程度の量の果実や山菜などを袋の中へと入れていく。
さっき見つけた果実は美味しいけれど、果肉がとても柔らかいからお互い一つだけ採って、その場で食べるに留まった。仕方ないよね、潰れたりしたら袋べちゃべちゃに汚れちゃうし。
勿論、果実は甘くて美味しかった。さすが私の気力的なエネルギー源。
更に通りに沿って森の中を進んでいくと、通りから細い横道があったのだ。きっと、この道もどこかの村へと続いているのだろう。
注意深く周囲を見渡してみる。
誰も居ない。それを確認して、私達はその小道から大通りへと歩いていった。
大通りに出ると、遠くに大きな城壁が見えた。
きっと、あれが王都なのだろう。村で見た木を使った壁などではなく、加工された石を積み上げた美しい城壁だ。
この距離からもとても大きいという事が見て取れる。
「あれが、王都……」
夕日が城壁に影を深める。
それはまるで、どこかに絵画として描かれていそうな程美しい。
その光景に私は見とれてしまった。
「行きましょう、アギサ。王都で宿も取らなければなりませんし」
「あ、うん……」
レンに袖を引かれ歩き出す。
王都へと。




