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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
絡み合う物語
28/65

生まれ変わる心

8/28日 小説内を一部加筆修正しました。

 一陣の風のように流れる刃は、竜種ゴルドロアの首を切断し、落として見せた。

 それは、噂にたがわぬ圧倒的な力。


 魔鎧を持っている者とは、こうも平々凡々な人間を置いてゆくのか。

 ダグラは目の前で起こった出来事を理解した時、自らの力の無さに対して悔しさを感じていた。


 グダラだけではない。この場にいた殆どの騎士が、己の無力さを嘆いた。

 ある者は全てを防ぐ力を、ある者は素早い魔法の展開を、ある者は何者に負けないパワーを求めた。

そして、目の前に現れた本当の力を持つ者の存在が、彼らの心の先にある、一つの到達点への扉の鍵となったのだ。


 それは、ゆっくりと開花するだろう。



 「……っ、っ…!」


 立ち去ろうとする勇者に、グダラは無意識に手を伸ばす。だが、何も言葉が出て来ない。

 白銀の勇者は何を語るでもなく、自らの役目は終わったとばかりに、森へと飛び上がった。背中に背負われた筒より、炎を吹き出しながら。


 彼らには、ただそれを見届ける事しか出来なかった。



 勇者が森へと消えた直後、森からふわりと小さな緑色の光が飛んできた。

 騎士達は満身創痍の体で、それを警戒する。


 しかし、その光はふわりふわりと、風に揺られる綿毛の如く、騎士達の集う中心へと漂った。



 緑色の光はそこで漂うのを止め、淡い音を立てて弾けた。

 光の粒子はその場に居た騎士達へと降り注ぐ。


 「こ、これは……!?」


 「傷が、塞がっていく……のか? なんだ、これは……」


 緑色の光の粒子を浴びた騎士達は、体の底から力が湧いてくるのを感じた。そして、己が受けた傷が淡い光に包まれ、塞がっていくのを目の当たりにしたのだ。

 癒しの光が、騎士達を包み込んだ。



 一一光が収まると、騎士達の怪我はその大小に関わらず、殆ど回復していたのだ。致命傷を受けていた者ですら、傷口は残っているもののそれ自体は塞がっている。


 これも、勇者の力なのか。それは定かではない。


 グダラ騎士団長は、後方の負傷した兵士達に手を貸し、城へ戻るよう声を上げた。

 彼らが戦ってくれていたおかげで、竜の足止めが出来ていたのだから。


 僅かに届いた光の粒子は、兵士達の体力を少しだけ回復させてもいた。



 だが、光の粒子を側で浴びても、亡くなった者には何の変化も現れる事は無かった。

 仲間だった亡骸を抱え、彼等は半数が王都へと帰還する。


 残りの半数は、竜種の亡骸の監視。そして、勇者が去って行った先への調査だ。



 グダラはその場に残り、調査を続ける事を選んだ。上へ報告するにも、状況を整理しておかなければならない。

 その為にも、少しでも多く、今回の出来事を把握しておかなければならないのだ。


 何故、突然竜種が現れ王都へ向かっていたのか。

 何故、白銀の勇者はこの場に現れたのか。

 何故、あの緑色の光は我々を癒したのか。


 疑問は尽きない。そして、どれもこの場で確認をする方法は無い。



 グダラは今回の戦闘についても思い返し、反省する。自分は殆ど手を出す事すら許されなかった。

 指揮を取るものとして、あの時、このまま押し込めば勝利を手に出来ると、慢心してしまったのだ。油断の無いと言われる騎士団として、それは愚行だった。

 そして、思い出した。竜種は、自然を操り天変地異を起こしたと言い伝えられている事を。


 あの竜種が操ったのは土。

 我々の戦う時の視界の死角から、土を操り魔力で固めたもので攻撃してきたのだと。


 直接、竜種から放たれる攻撃しか想定していなかった指揮官である私のミスだ、と。



 心に油断があった。慢心があった。隙があった。それは戦いにおいて致命的なのだ。


 グダラは決意する。

 もう一度、我々は一から鍛え直さねばならないと。自らの地位も立場も関係無く、一人の戦士として己を鍛え直さねばならない。


 その場に残らせた者に指示を飛ばしながら、グダラはこの先に思考を巡らせる。



 白銀の勇者が特別なのではなく、人間は誰しも強くなれると信じよう。あの者のように、他者を虐げる為に力を振るわず、自分の信念のために力を求めよう。

 勇者は、それに早く気付いただけなのだ。

 きっと、それ故に勇者なのだ。



 ならば、勇者の力をこの目に写した自分も、一つそれに近付いたのだと。






 魔鎧とは人の心に感応し、強い信念と鍛えられた肉体を持つ者が呼び覚ます事が出来る。


 この日、騎士団の数名には魔鎧へと繋がる道が、薄らと浮かび上がり始めていた。

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