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機械仕掛の異世界英雄伝説  作者: 桃芳亜沙華
歩き始めの物語
20/65

エルフ

8/28日 一部修正しました。

 そうですね、何から話していきましょうか。

 先程、アギサがお気付きになった通り、私はエルフと呼ばれていた一族です。


 とても長命なのですよ、これでも。


 エルフは、この王国が誕生する前からこの大森林に住んでいました。小さな集落で、モンスターから身を守りながら、森の奥深くに。

 流石に、この頃に私はまだ生まれていませんけどね。



 エルフは魔法を使います。エルフの魔法は始まりの魔法。今、人間が使用している魔法も、かつて私達エルフが人間に伝えたものなのです。


 人間達も、魔法という便利な力を手にし、初めのうちはエルフとの親交も深いものでした。



 ですが、人間は魔法を、殺し合うための道具として扱い始めたのです。


 国と国の争い、人間は絶えず戦争を繰り返しています。力を手にすれば、それを持って他国を侵略していく。

 この大森林の近くだけでも、いくつもの国が滅び、また栄え、滅びを繰り返していたと言われています。



 エルフの魔法はとても強力です。


 その顔、アギサさんも容易に想像が出来たと思います。

 エルフと親交が深かった人間達は、エルフの力を戦争の道具としました。


 我らの国を救って欲しい。エルフの力を一度だけでいいから、我が国のために使って欲しい。

 その人達はそう言って、エルフの里の若い者達を協力という形で連れていったのです。



 エルフの魔法一つで、戦況は大きく変わりました。それだけ、エルフの力は戦場のバランスを崩してしまうものでした。

 人間達は、更にエルフの魔法を欲しました。そして、同時に、恐れました。

 その魔法がいつか、自分達を焼き尽くすのではないかと。



 連れて行かれたエルフ達は戦争が終わっても帰ってくる事はありませんでした。


 人間達は、自分達に魔法を教えているのだと言って、里に帰るのを暫く待てと、そう言って。



 けれど、待てども待てども若いエルフ達が帰ってくる事はありません。それもその筈です。

 既に若いエルフ達はこの世を去っていたからです。


 エルフと親交の深かった人間の一人が、大怪我を負いつつも、エルフの里へと辿り着き、全てを語りました。


 エルフは戦争が終わる頃、後ろから討たれたのだと。

 生き残ったエルフは拷問に掛けられ、自らの知る魔法を吐かされたのだと。


 その人間は、全てを語り終えると静かに息絶えたそうです。



 そこからは、怒りに燃えるエルフと、罪深き人間の争いです。

 数は圧倒的にエルフが負けていました。


 ですが、エルフの魔法は一騎当千。次々と人間達を焼き払っていったのです。

 それでも魔法を使う力には限りがあります。


 エルフは疲弊しました。

 人間は数の暴力とでもいうのでしょうか。何万もの兵をもって、エルフの里へ進行してきました。

 その中には特殊な力を持った人間も少なからず居たとも言われています。


 結果、エルフの殆どは壊滅したのです。

 


 生き残ったエルフは、ほんのわずか。

 大森林の奥深くで、長い時を隠れて過ごしました。


 人間が国を作り、滅びるような時を、隠れて過ごしました。

 この頃にはもう、エルフは過去のものとなっていました。


 そして、残ったエルフは誰に気付かれる事もなく、森の一部に自らの力を振り絞り、特殊な結界を張ったのです。

 純粋な心の持ち主。悪しき心を持たぬ者しか侵入を許さない、聖なる結界。



 その結界の力が、長い時を経て、聖女の泉の御伽噺を生み出しました。


 そう、エルフはもう極僅かしか残っていないのです。




 私が泉に居たのは、逃げてきたから。

 それまでは草原の向こう側、ビモグランデで薬草や薬を売りながら薬師として、目立たないように、ひっそりと暮らしていました。魔法で姿まで変えて、極力人間と良好な関係を築きながら。


 ところがある日、この大森林の奥、奈落の先のビモグランデの王都から現れた黒い力に満たされた、凶悪な存在から逃げてきたからです。


 どういうわけなのか、その黒い力は人里から離れた場所に潜んでいた私を見つけ出して来たのです。



 私は必死に逃げました。



 エルフの残した聖域に戻る為。



 私は草原を越えて来たんです。

 途中、モンスターに追われてしまいましたが、何とか逃れる事が出来ました。


 大森林へ帰って来ましたが、私も疲労困憊で、そこからの記憶が曖昧なのです。

 恐らく、お恥ずかしいのですが、水を飲もうとしてバランスを崩して泉に落ちてしまったと思うのですけれど。



 ……。


 アギサさん、これだけは覚えておいてください。草原の向こうの国は何か恐ろしい事をしようとしています。

 きっと、こちらへも影響が出るか、もしくは、こちら側の国との戦争が起こります。


 そうなってしまえば、ここも安全ではなくなってしまうかもしれません。

 この結界が遮られるのは、人間のみ。


 森に火が回ればひとたまりもありません。



 私が知るのは、これで全てです。

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