そして旅立つ者は
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その手に握られたのは、全てが白色の剣。
軽く、丈夫な、とあるモンスターの爪を加工して作られた貴重な一振り。
あれから、毎日素振りや鍛錬を欠かさずにやってきた。自分の目の前で繰り広げられた惨劇を、二度と見ないために。
強くならなければならない。
鈍重な鍛錬用の剣に持ち替え、ブレなく一閃する。
ただ、それの繰り返しを何時間も、何日も、何ヶ月も繰り返していた。
少年は成長する。
憧れた存在を目指し、今日もまた鍛錬を続ける。
あの日、村で自分は命を救われた。
真っ白な、世界の闇すらも浄化させるような、天から舞い降りたが如き勇者に。
身を呈して、自分の盾となったあの人に、あの時死ぬはずだった運命を変えられた。
他者を寄せ付けない圧倒的な強さ。
鎧袖一触を表したような、手で触れるだけで相手を薙ぎ倒す、人間離れした強さ。
その正体は、少年より少し上くらいの、女の人だった。
あの超人的な強さは嘘のように、華奢で、儚げな印象を受ける少女。風にたなびく黒髪は、艶やかに、人の意識を吸い込むような奥深さがあった。
少女は記憶喪失なのだという。
自分に何故このような力があるのかを知らないと。
村の人たちは少女を勇者だと、救世主だと褒め称え、崇めるように宴を開いた。
少年も、親に連れられて、少女に助けられたお礼を絞り出した。
その言葉に、少女は優しい微笑みを浮かべていた。
先程までの、困ったような笑いではなく。
少年はその日から、鍛錬を始めた。
あの日、自分に守る力があれば、村の人たちは誰も死なずに済んだのかもしれない。
自らの恵まれなかった体格に理由をつけて、不貞腐れていた少年はこの日、動き出したのだ。
少女の持つ歯車に突き動かされたかの如く。
あれから少女は村には来ていないが、村に訪れる人達の噂によると、モンスターを退治していたり、襲われていた人達を助けたりしているのだそうだ。
少女にとって、誰かを助ける事は当たり前の事だと言わんばかりに。
少年は村長に頼み込んだ。
少女が手にした、あの剣が欲しいと。
村長が凄く困った顔をしていたのを覚えている。だけれど、村長はそんな少年の頼みを聞き入れてくれたのだ。
当然、反対する大人達もいた。
少年が鍛錬をしているのを、一時ですぐに辞めてしまうだろうと、殆どの大人はそう思っていた。
だが、村長はそうではなかった。
少年が必ず強くなると、鍛錬を続けていくと確信していたのだ。
それから半年後、更に厳しい鍛錬を積み重ねるようになった少年の元に、村長によって、あの白色の剣が届けられた。
少年はそれを受け取ると、試し斬り用の丸太を一太刀。
それだけで、少年の続けていた鍛錬が、どれ程のものなのか、明確に分かるほど、素晴らしい一太刀だった。
少年は、近い内に旅に出るという。
この一年で少年の成長は速度は天才的だと言われるほどだ。
体格も鍛錬に合わせるかのように、鍛えられ、身長も伸びた。
少年の剣の腕は今や、村の中では右に出るもの無く、時折立ち寄りに来た旅人や、兵士にさえも打ち勝って見せたのだ。
だが、少年はそれだけでは満足出来なかった。
あの時、自分が見た最強を。
それには程遠い事が分かっているから。
少年は旅に出る。
自らの心と体を鍛えるために。
少年の思い描く、理想の強さを手に入れるため。
そして、白銀の勇者に出会いに行くために。
少年は、旅に出た。