泉は茜色に染まる
そんな生活を続けて何日が経っただろうか。いや、もう既に数ヶ月が経過しているのかもしれない。
その間も襲われている人達や、モンスター討伐、近隣の村の方にも少しご飯や、その他必要なものの為に寄ったりはしていた。
着替えとかも大事だからね。うん、汚れたままのを着続けるのは何か抵抗が大きかったのだ。
私は薬草や、モンスターの素材を売ることで日銭を稼ぐような生活だ。あまり多く持ち歩いていると、付け狙われそうになるのは助けた経験のある人達に、そういう人も多くいたからだ。
必要以上に持ち歩かない、今はそれだ大丈夫だろう。
まぁ、襲われた所で返り討ちにはできるのだけれど、それだと常に気を張っていないといけないので、精神的に疲れてしまう。やっぱり、私は気の向くままに生活をしていたい。
そうして、私は時間を掛けて、少しずつ少しずつ木材を集め、モンスターの素材等を売ったお金で、工具を入手した。
簡単な工具だけれど、大丈夫かな?
最初の村であるシバルド村、そこから森を挟んで少し離れた位置にあるヒーライ村。
私はその森の中に、綺麗な泉があるのを見つけた。そして、そこに簡易的ながらも今の拠点を建てようと思う。
流石に野宿ばかり続けるのもどうなのかと。
ここなら殆ど人は来る事は無いだろうし、泉も綺麗だし、食べられるモンスターも生息しているし、美味しい果実の木もいくつか見つけたので、丁度いいのだ。
数日後、森の中に釘を打ち付ける乾いた音が響き渡る。
隣接した大きな木の間を通すように、巨大な板を打ち付けていく、私の姿がそこにはあった。
木材は重いので、この作業をする時は魔鎧を展開している。だが、力加減がすごく難しかったりもするのだ。下手をすれば、簡単に木くらいへし折ったり出来るので。
木材の加工は、腕の剣で行った。
この剣だと、容易に加工できるので便利なのだ。試しに、地面から突き出していた岩を切ってみたら、両断できた程には斬れ味が良い。
木材を集めては組み立て、打ち付け。少しずつ、少しずつ、その外観が確かなものになっていく。とは言っても、素人のお手製ツリーハウスなので、凄く不格好なのに間違いはない。
素朴な外見の、ツリーハウス。広さこそは無いが、そこそこ頑丈に作れたと思う。
これももう少しで完成だ。
初めてにしては中々の出来なのではないだろうか。
と、屋根の基礎を張り付けたところで、日も暮れて来たので今日の作業は終わり。明日には完成しそうだ。
既に、天井は塞いであるので雨風を凌ぐ建物としての役割は果たしてくれるだろう。
汗もかいてしまったし途中やってきたモンスターとの戦闘で泥だらけになっちゃったし、今日は着替えよう。
その前に、最近の楽しみである水浴びをしてからだ。
お風呂が無いのが実に残念に思います。
私は泉の畔で着ている服を脱ぎ、爪先からゆっくりと入水する。冷たい。けれど、気持ちいい。
体を手で擦り、汚れと汗を洗い落としていく。腰程まで水に浸かっているが、私の髪の毛の先端は水に浸り、浮き広がっていく。
……結構伸びてるなぁ。
ほったらかしにしていたが、髪の毛は既にお尻の方に届きそうなくらいまで伸びている。切るべきかどうか。んー……保留。
今は紐で束ねておこう。
体全体の汚れを落とし、私は更に深みへと進む。そして、大きく息を吸い込み、水の中へとその体を沈めた。
髪の毛が広がり、私は頭を指で頭をガシガシと洗う。頭皮近くまで入り込んだ砂を落とすのも一苦労だ。
私は泉の中を泳いでいく。
それに特に理由があるわけでもなく、ただぼんやりと水面を進む。
夕焼けが、森を照らしていてすごく綺麗だ。
茜色の水面が揺れ、陽が差した木々が赤く萌えている。
スローライフというのも、悪くないかもしれない。
暫くして、私は泉から上がり、水に濡れて体に張り付いた髪の毛達から水気を飛ばしていく。水滴が滴らない程度まで水を絞ったら、あの時の化け猿の毛で作っていた紐で髪の毛を束ねる。
そして、新しく用意していた服に着替えて、今度はさっきまで着ていた服の洗濯を始めた。
これは家の近くに干しておこう。
明日にはまた、大工作業か。
それも楽しいと思えてきたので、そのまま机とか椅子とかも作っていこうかな。
今日は早めに寝ておこう。
また明日、朝はご飯を調達しにいかなきゃ。