破砕の調べ
それからは早かった。
軽く腕を振るだけで相手を鎮圧出来るので、武器を破壊して腕や足を狙って、身動きが取れないようにしていく。
いざという時は、私自身の体を盾にして村の人達を可能な限り救出していけばよいのだ。
思い切り地面を蹴れば、私の体はまるで弾丸のように高速での移動が出来る。次第に、動ける野盗は減っていき、残ったのは一際体の大きい、リーダー的な存在だった。
大きいとはいっても、化け猿程じゃないけど。
その見た目は、屈強な大男と言って差支えはないかもしれない。
「貴様、何者だ。まさか、王国の騎士がこんな辺鄙な村に用があるとは思えないがな」
男が言う。
王国? そんなものは私は知らない。
「まぁ、何でもいい。俺の仕事の邪魔をしやがって……ご丁寧にまぁ、手下共を可愛がってくれたじゃねえか」
村の人たちを襲っていたあなた達が悪い。
あの虐殺を見て、何か特別な理由があったとは思えない。そう、まるで楽しむために殺しているかのようなあの表情……
「なんだ、俺達がやった事が気に食わないってか?」
「私は許さない。あなたにも、大人しくして貰います」
男は不敵に笑みを浮かべる。
どうやら、戦う気満々みたい。さっきまでの私見てたら、少しは戦意を削いでくれるかなと思ったけれど、ダメみたいだ。
この不自然な余裕、何か隠し玉がありそう。
「丁度、お前みたいな奴を探してたんだ。強い奴をよ!」
豪快に笑う男。戦うことが好きなのか、このなんちゃって戦闘民族は。
男は顔や身体中に、無数の傷跡が目立つ歴戦の戦士のような風貌をしている。その恵まれた体格に、巨大な金属の一枚板の胸当ては、その男の力強さの象徴なのだろう。
「簡単に壊れてくれるなよ? 魔鎧着装! ギガンティックアーム! ギガントアックス!」
男が腕を天に翳し叫ぶと、男の両腕が輝くを放ち始めた。次第に光は男の腕を飲み込み、そして形を変える。
光がやんだそこには、重厚な金属で出来た腕が現れた。自分の体並に巨大化したそれを、男は事も無げに振り回している。
だが、それだけでは終わらない。
男の鎧の両肩から突き出た柄のようなものを組み合わせると、それが光に包まれ、同じように形を変えていった。
光が形作るのは、巨大な斧。
大木すらなぎ倒してしまいそうな存在感を放つ斧だった。
「潰れちまいなァ!!」
自信満々の表情で、男は斧を振り下ろした。
私は、それを片腕で受け止める。片手で。斧を掴んで受け止めてみせた。
関節からは小さく金属の軋む音が聞こえるが、この程度なら大した事はないだろう。
「残念、潰れませんでした」
「ば、バカな……! 俺の斧を受け止めるだと!?」
「じゃあ、次は私の番ね」
私は掴んでいた手に力を込め、斧を破砕すると、次に男の両腕を掴んだ。
男の腕に装備された巨大なアームに亀裂が入る。
そして、砕けた。
「魔鎧が……砕けた、だと……? そんな、馬鹿な話が……!」
呆然とする男をそのままに声をかける。
「歯、食いしばってね」
私は男の顔をめがけて腕を振り抜いた。
男は他の仲間と同じように、骨を砕かれ、弾き飛ばされた。
私の桁外れのパワーにはまったくの、無力だった。
私でも計り兼ねる力に、内心戸惑いつつも、村人の安否を確かめにいかなければ。