表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blood Enraptured  作者: 夜渡 雨水
序章
1/1

A-00,末路

 ――声が聞こえた。


 自らの名を呼ぶ、愛しい人の声が。

 しかし、すぐにそれが空耳と気づき、頭を振った。

 自嘲的で、それでいて苦しげに笑う少年に、声がかかった。

 今度は空耳ではない。

「大丈夫……?」

 赤と黒の斑に染め上げられた空を飛翔する黒竜が声の主だ。

 物々しく、荒々しい外見ながら、その声音はあどけない少女のものだ。

「……あぁ、大丈夫だ。帰ろう、もう良い」

「う、うん。――じゃあしっかりと捕まっててねっ」

 兵士や騎士、民衆達の悲鳴で埋め尽くされた大都の上を旋回する。

 肌を叩く風は酷く生暖かく、血生臭い。

(……知った事かよ、人類の未来なんざよ)

 幾ら鎮めど再び燃え上がる戦の火。

 幾人殺しただろう。

 幾人救えなかっただろう。

 最早諦観だ。

 根元が腐っているのだ。

 幾ら足掻こうが、抗おうが、救おうが、無意味だ。

 いずれ全て腐り逝く。

 腐り、汚泥に沈む。

「ねぇ、シシュー」

「? どうした?」

 不意に声をかけられ、少年は首を傾いだ。

「……本当に、大丈夫?」

「……――」

 答えられなかった。

 寧ろ、どう答えたら良いか分からなかった。

「素直に言えば良いんだよ」

 声音は幼き女のそれであるものの、その口ぶりは、まるで子を想う母のように穏やかで、諭すようなものであった。

 外見と声が釣り合わないんだよ、と思わず悪態を突きたくなった。

 しかし、自然と笑みが零れた。

 そして、

「実を言うと、結構参ってるんだ」

 そう口にした。

 苦笑を伴わせて。

「ほらやっぱり!!」

「あ、あはは……、済まん」

「もー、すぐそうやって隠すんだからー」

「悪かったって。反省するから、な?」

「反省してもそれが活かされてなきゃ意味がないんだよ?」

「……返す言葉もないな」

「まぁもう慣れたけどねえ、でもやっぱり自分の口からそう言うのは言って欲しいじゃん」

「……善処する」

 少年を乗せた黒き竜は西に飛ぶ。

 外村止愁。

 それが少年の名前だった。

 今から十年以上も前に召喚され、魔王を無事倒した――と言うよりも気絶させ、倒した、と言う事にした――勇者であり、英雄的存在だ。

 が、実は魔王を倒してはいないと言う事がどうしてかバレ、裏切り者とされる。

 元々仲間だった者達に狙われ、慕ってくれていた人々から追い掛けられ、襲われた。

 何度と、何度と襲われた。

 勿論、反撃はしなかった。

 何度と死にかけた。

 そうして命からがらに逃げ延びた先で魔王に救われ、永遠の命を与えられる。

 その後、魔王が死ぬ直前で子孫を残し、それを彼に託した。

 その子孫が今彼を運ぶ黒き竜なのだ。

 弱冠人間年齢で十歳がそこらだと言うのに、もう竜化出来るのだから驚きだ、と止愁は言う。

 

 そしてそれから更に三年が経った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ