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一話「魔法少年」

少女が次に目覚めた時、件から一ヶ月以上たってからだった。

長いあいだ自分がなんども死ぬ夢をみていた、それでも目が覚めることはなかった。

目が覚めたときまるでここが夢であると思えるほどだった。

おぼつかない足を鳴らしながら壁を伝って立ち上がる

ゆっくり、一歩づつ部屋を出る。

まだ記憶もはっきりしないが机に置かれたお盆と空の器を見たとき行かなきゃいけないと本能的に思っただけだった。


「くっ……」


体が重い、まるで自分のものではないと錯覚するぐらい。

さらに片腕であることも合わせて移動はかなり困難である。

しかし、それでも自分の足で歩きたかった。


「なにしてんの?」


「ひいっ」


少女は突然声を掛けられてその場にへたりこんだ。

ゆっくり視線を動かすと、見たことあるような少年……アルフレッドが立っていた。


「あー……えーと……」


必死に名前を思い出そうとしたがなかなか出てこない。

アルフレッドは大きくため息を吐くとやれやれといった感じで手を差し出す。

少女は戸惑いながらまそれを掴み、立ち上がる。

しかし、足に力が入らず立ち上がったところでふらつきアルフレッドの体を押し倒す。

大きな音を立てて二人は倒れこむ。

アルフレッドはもう一度大きくため息をつく。


「ご、ごめんなさい」


少女は慌てて立ち上がろうとするがうまく立ち上がれない。

呆れたアルフレッドは少女をゆっくり自分ごと起こし、そこに座らせる。


「体は?」


アルフレッドは冷たく言い放つ。

少女はなんのことだかわからないがとりあえず頷く。


「痛くないの?」


少女は黙って頷く。


「名前は?」


少女は黙って頷く。

が、直ぐに訂正する。


「ま、まって」


自分の名前は……

少女の思考はそこでとまる、そもそも自分がなぜここにいるかも分かっていない。


「私は……どうしてここに?」


逆にアルフレッドに問う。

その言葉にアルフレッドは再度ため息をつく。


「まあ、いいよ。君帝都の人間でしょ?」


「え?」


少女はそれすら理解ができないといった顔をしていた。

アルフレッドは逆にすべてを理解した。

ここにいる人間が記憶喪失をしていることを。

自身の昔と重ねて理解した。


「君の名前はティア。いいね。今からティアだ」


アルフレッドは力強くそういった。

少女……もといティアは圧巻されながら頷いた。


「さてティア、早速だけどここじゃ自分の食事は自分で手に入れる。つまり働かざる者食うべからずってことなんだけど理解できるかな?」


ティアは黙って頷く。


「よろしい。ならこれからすることは分かるかな?」


ティアはちょっと考えたがわからないといった感じできょとんとしている。

アルフレッドはティアを無理やり持ち上げるとそのままゆっくり運ぶ。


「とりあえず、ゆっくりご飯たべてゆっくり寝て明日お話しようね」


なされるがままティアはベッドに寝かされた。


「寝てな。落ち着くまで。寝れなくていいから」


そう言ってアルフレッドは部屋から去っていった。

一人残されたティアは今までのことを思い出そうとした。

しかし、浮かんでくるのは暗く大きな場所で黒い何かに追われる夢ばかりだった。

慌てて違うことを考える。

そうでないと、得体の知れない恐怖が襲いかかってくる。

自身の失った左腕があったところを見る。

なにも感じない、なぜないのか。

それも考えたくない、そう思った。


「寝よう」


思考は思ったよりはっきりしていた。

しかし、はっきりしすぎてその奥の暗い闇が見え隠れする。

見たくない、そう思えば思うほど恐怖が襲いかかってくる。


「……ッ!」


ギュッと力強く目をつむる。

ティアは悪夢と悪戦苦闘しながらゆっくりと眠りについた。




「おはよう」


「お、おはようございます」


ティアが目を覚ますとアルフレッドが傍らで本を読んでいた。

軽く挨拶を交わすと、アルフレッドは読んでいた本を閉じゆっくり部屋を出た。

しばらくすると彼はスープのようなものを持ってくると近くの机の置いた。

そして何も言わずにまた傍らに座って本を読み始めた。


「あ、ありがとうございます」


そう言って申し訳なさそうにそれを口へ運ぶ。


「あ……おいしい」


スープを運ぶ手が早まる。


「まだあるからゆっくり食べなよ。久々の食事だから胃が驚くよ」


アルフレッドがそう忠告するがティアは涙を流しながらそれを口に運んでいた。

小さくため息を吐くが今までと違い安堵のため息だった。

そしてまた本を読み始めた。

しばらくして、食事を終えるとティアはゆっくり口を開いた。


「あの、お名前聞いてもいいですか?」


「アルフレッド。長いからアルフとかアルでいいよ」


アルフレッドは本から視線を離さず口だけ動かして会話する。


「アルフレッドさん……ですね」


「さんもいらないし、長いからやめて」


「は、はい……ア、アルフ……」


ティアはそれだけ言うとシュンと沈んでしまった。

アルフレッドは横目でその姿を見ると不憫に思いったのか言葉を紡いだ。


「ティア、今はまだいい。体調が良くなったら君を元の場所に返そうと思う」


そう告げられ、ティアは目を丸くした。

自分自身のことがわからないのに、元の場所。

それだけで混乱した。

そして素直にその疑問を口にした。


「私は何者なのですか?」


アルフレッドは一瞬なにかを言いかけたが、一度口をつぐんで別の言葉を繋げた。


「君は帝都……ここから山二つ超えた先にある帝都アルクの騎士団の一員だ。何かの任務でこの近くまで来たのだろうけど。ちょっとした事故で記憶を失い、僕の家にいるって訳だよ。腕はもともと無かったから隻腕の騎士だったのかな」


アルフレッドはゆっくり悟すように言い聞かせるようにティアに告げた。

その言葉は半分本当で半分嘘だった。

しかし、差なんて今のティアにわかるはずがなかった。

ただ、アルフレッドは親切心で嘘をついた。

しかし、ティアの返答はアルフレッドの予想をはるかに外れるものだった。


「じゃあ、私はここにいます。ここにいたい」


「え?」


思わずアルフレッド素で返した。


「ま、まって。ここにいられると迷惑なんだよ。さっさと戻って欲しい」


これも半分本心だった。

今の彼にはもう一人を養って行くほどの能力はなかった。

けれど半分は……


「それは承知しています。けど、少しの間でいいのです。せめて借りた借りを返せればそれでいいのです」


ティアが見せた表情が、その言葉がアルフレッドに響いた。

彼が他人との必要ない接触を絶ってからどれくらい経っただろうか

大人は必要以上に接触してこない、無駄に硬くなった頭で理屈をごねる。

同年代の子供は、理解できず異分子は仲間と見なさない。

同情はいらない。

ただ、話相手が欲しかった。

余計な感情のいらない。

その時、ティアにそんなつもりはなかったのかもしれない。

アルフレッドの思い違いかもしれない。

けど、その時はそう感じ、そう思えた。


「いいよ、じゃあ」


「え、え?いいの……ですか?」


「なんでそんな驚いてるの?」


「い、いえ。てっきりダメって言われるのかと……」


「べ、別にそこまで邪険にする必要ないし。それに無料で一月も看病してたし。少しは恩返ししてもらわないとね」


そう言って、アルフレッドはまた本を読み始めた。

その顔は少し紅潮していたがティアは気づくことはなかった。

ティアはその態度がよくわからなかったが、それよりもここにいれることが嬉しかった。

今の自分に居場所ができたことがなぜが幸せだと感じた。




「センスないなぁ」


あれから一週間がたった。

ティアも体調がすっかりよくなり今ではアルフレッドの仕事の手伝いのための訓練をしていた。

主に魔法、それも肉体強化を重点を置いた訓練である。

アルフレッドは肉体強化により、狩猟と鉱物収集を生業としていた。

町外れで山が近いアルフレッドの家は豊富な獣と鉱石が大量に眠っているがこの町では漁業と農業が盛んであり、だれも危険が伴う狩猟や鉱物に目を向けるものはいなかった。

そのため、アルフレッドはそれに目を付け、肉体強化による魔法を駆使して仕事としていた。

ティアの提案により、その手伝いを申し出たのだが飲み込みが悪くなかなか魔法を覚えられないのであった。


「うーん……教え方が悪いのかな……」


「い、いえそんなことはないです。私が悪いのです」


「あー分かったからしょぼくれない。練習すれば……ああ、そうか」


そう言うと、アルフレッドは手のひらを差し出すと小さな火の玉を出現させる。


「放出ならできるんじゃない?」


アルフレッドがそう問いかけるとティアはその火をじっくりと凝視する。


「ほ、放出……?」


そしてゆっくり聞き返す。


「そう、魔力を五大元素のどれかに放出させる。これが放出」


そう言うと、手を引っ込め。

ティアの前へ人差し指を差し出す。


「続けて言ってね。セット。ファイア。アクション」


言われたとおりにティアはゆっくり手を差し出し、魔法を唱える。


「セット……ファイア……アクション」


次の瞬間、ティアの手から大きな炎が吹き上がる。

その勢いに驚き尻餅をつく、炎は消え去り。

辺りに静けさが戻る。

アルフレッドはしばらく呆気にとられていたが

直ぐに正気を取り戻し驚きの声を上げる。


「す、すごいね……属性は炎で確定かな。それと放出は得意みたいだね」


「じ、自分でも驚きました……」


そう言うとティアはじっくり自分の手のひらを凝視する。

その様子にアルフレッドは「どうしたの?」と声をかける。


「あ……熱くないんですね……」


間の抜けた、言葉にアルフレッドは小さく苦笑した。

それに続けて小馬鹿にしたようにこう言った。


「当たり前でしょ、術者が火傷したら炎なんて使えないよ」


「そ、そういえばそうですね」


そしてティアは笑った。

その姿を見て、アルフレッドも小さく笑った。


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