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その言葉を追うように、あるいは誘われるように舌が伸びて、触れ合った途端、果汁のように温かい液体が溢れ出てきた。液体は封をするように重なった口の中で、絡まり合った舌の間で、ゆっくりと溶け合い、混ざり合った。
同じように、わたしもちゆちゃんも、溶け合い、混ざり合う。
「好き」
その言葉は、もうどっちが口にしたのか判断がつかなかった。
そのふた文字はなんども耳に届いた。同じシャンプーの匂いが鼻をついて、お互いの瞳にお互いを映して、混ざり合った温かい液体を舌で転がして。
それはわたしがずっとずっと望んでいた世界、そのものだった。
同じ景色を見て。
同じ音に耳を傾けて。
同じものに触れて。
同じ匂いを嗅いで。
同じ言葉を囁いて。
溶け合うみたいに、お互いがひとつになれる。
そんな世界。
そんな世界に、今わたしはいた。
ちゆちゃんと一緒に。
ちゆちゃんとひとつになって。
恍惚の中で、閃きにも似た思いが浮かぶ。
この先には、何があるんだろう。
新しい世界のその向こうには、どんな世界が広がっているんだろう。
そこでもわたしはちゆちゃんと一緒になれるのかな。
ひとつになったままでいられるのかな。
それとも、もっとすごいことが?
どんな風になるんだろう。知りたい。見てみたい。
その向こう側へ、ちゆちゃんと一緒に行きたい。
背中に回していた手が、自然と前へ移動する。同時にちゆちゃんの手も首から下へと降りてくる。
ふっと唇が離れる。
「ねぇ、私にのりちゃんを見せて」
「わたしにもちゆちゃんを見せて」
ごめんね、さっちゃん。ほどほどになんてできそうにないかも。
わたしたちはひとつ、ふたつとお互いのブラウスのボタンを外していった。
その向こうの世界を覗くように。
新しい世界の扉を開くように。 <了>




