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「……ごめんね、のりちゃん」
しばらくして、ちゆちゃんがぽつりとつぶやいた。
「いいよ。もう落ち着いた?」
「うん。でも、私、のりちゃんに謝らなくちゃいけないの」
そういって半身を起こした。腕を回しているわたしも引っ張られるようにして、身体を床から離した。勢いそのまま馬乗りになる。
「さっきのりちゃんは私に憧れていろいろ集めてたっていってたけど、実はね、けっこう前から気づいてたの。初めは偶然かなって思ったりもしてたんだけど、でもいつも私のこと見てたし、そうなのかなって」
「見てたのも、気づいていたんだ」
「だって窓に映ってるんだもん」
他にも髪を直す振りをして手鏡で確認したこともあったらしい。
「こんな私のことを見てくれる人がいるんだって、そう思ったら私、なんかすごく嬉しくてドキドキしちゃって……たぶんもうその時から、私、のりちゃんのこと好きだったのかも。もっとのりちゃんに見てほしいなって、そう思ってたから」
そこでひと呼吸するように一拍置いた後、
「本屋で逢った時のこと憶えてる?」
と訊いてきた。でも、わたしが答えるより先に、独言するようにこう続けた。




