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「たぶん、あの娘がみんなに何かいったんだと思うけど、どんなことをいわれたかなんて怖くて訊けなかったし、それにその時はまだその娘のことが好きだったから、信じていたくて、詮索はしなかったの」
それでも仲良くしてくれる娘はいたけど、それも彼氏ができたりするとちゆちゃんと話すこともなくなって、そしてある時、その仲の良かった娘の口から気持ち悪いという言葉が出てくるのを耳にしてしまったらしい。
「教室に忘れもの取りに行こうとしたら、私のことそういってるのを聞いちゃって。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」
でも、でも――とちゆちゃんはまたぽろぽろと泣き始めた。わたしは腕を回してちゆちゃんを抱き寄せて、そっと頭をなでた。
「ちゆちゃんは気持ち悪くなんかないよ」
「……のりちゃん」
ちゆちゃんはわたしにすべてを預けるように抱きついて、肩に顔を埋めたまま、しばらく子供のように声を上げて泣いた。
わたしも涙が出そうだった。胸が締めつけられるように痛かったし、ちゆちゃんを傷つけたその友達や、彼女が憎かった。悔しさも感じたし、悲しさも募った。でもだからこそ泣いてはいけないような気がして、わたしはちゆちゃんの頭をなで続けた。




