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「イヤ、だった?」
「イヤじゃないよ」
ぽたり、ぽたり。
「全然イヤじゃない。嬉しい」
「本当に? わたしの好き、気落ち悪くない?」
「気持ち悪くなんかないよ」
更衣室の雨漏りみたいに、ちゆちゃんの温かい雨が、ぽたぽたと優しくわたしに落ちてくる。
「今度は私の番ね。聞いてくれる?」
「うん。教えて、ちゆちゃんのこと」
ちゆちゃんの話は中学の時まで遡った。
中学三年生の当時、ちゆちゃんには彼女がいた。
その娘は中学二年生の時に転校してきて、三年生の時に同じクラスになったらしい。その時にはもうすでにその娘のことが好きで、ある時ちゆちゃんは思い切って告白して、そしてつき合うことになったそうだ。
「でも、一週間で別れちゃった」
やっぱり無理っていわれちゃって、と笑ってそういったけど、その声は沈んでいた。
「それから私、ひとりぼっちになっちゃったの」
「ひとりぼっち?」
そう訊き返すと、小さく頷いた後で、ちゆちゃんはまた瞳から雨を漏らし始めた。なんでも、フラれた次の日から女子のほとんどはちゆちゃんから距離を置くような態度をとったらしい。男子も心ない言葉をかけたり、からかったりしてきたそうだ。




