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それに返そう返そうと思って持ってきたまま、結局返せずにいるソックスが――洗っても洗ってもちゆちゃんの匂いがするそのソックスが、バッグの中に入っているから、それを履いたら、ちゆちゃんに包み込まれるような、ちゆちゃんの中に入っていけるような気がして、だから。
だから。
「……だからって」
膝を抱えて丸くなる。
最低。気持ち悪い。
普通じゃない。おかしい。
「何してんの、本当」
なんか自分じゃないみたいで、ちょっと怖い。
どこかで聞いた言葉だな、と思ってすぐに、それがちゆちゃんの口から出てきたものだということを思い出す。
「ちゆちゃん……」
声に出した途端、またうずいた。
いけない。ダメ。
それ以上は、もう本当にダメだから。
その時ふっと、足もとからちゆちゃんの匂いが漂ってきた。
あの日に見た、真っ白なちゆちゃんの足が白昼夢のように浮かぶ。
ちゆちゃんの脚。ちゆちゃんの身体。
ちゆちゃんの匂い。
「ちゆちゃん……ちゆちゃん……」
膝を抱えていた手をゆるめて、結局またちゆちゃんのことを考えながら、わたしはわたしを慰めた。




