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その日家に帰ったわたしは。
ちゆちゃんを抱っこしたその手で、新しい世界に初めて触れた。
どうしてそれまでそのことに気がつかなかったのか、気づいた今から振り返ると、不思議でたまらなかった。それを知らないわけじゃなかったし、興味があったとさえいってもよかったのに。
でもたぶんどこかで、そちらの世界とわたしとは縁遠いというか、きっと住む世界が違うんだろうなって、そんな風に考えてたんだと思う。
もとより、そういうことをする自分が想像できなかったし。
だから正直にいって驚いた。
そして同時に少しだけ嬉しかった。
救われたような気さえした。安心したといってもいい。
達成感のような開放感のような、爽快な気分のまま、その日はすぐに寝た。
でも翌日、学校でちゆちゃんを目にした瞬間、わたしは昨夜の反動のような激しい後悔と嫌悪と罪悪感とに襲われて、気を失いそうになってしまった。
でも、苦痛にさえ快感を覚えたわたしにとって、罪の意識は抑制するどころかむしろそれを促進させるものでしかなく、またそのことに気づくまで、たいした時間は必要じゃなかった。
むしろ必要だったのは、ひとりになる時間だった。
だから初め、それは夜が多かった。
夜、部屋でひとりいる時、それは際限なくわたしを突き動かした。




