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いらいらした。
今までで一番、いらいらした。
いつものように抱き合っていても、そのいらいらは収まらなかった。
わたしが怒るなんておかしいことは理解しているつもりでも、湧き上がる感情はどうにも止められなかった。
我慢し切れず、腕に力がこもる。
「……なんだけど、って、のりちゃん? えっと、ちょっと痛い、かな」
いわれてはっとする。
「あ、ごめん」
慌てて手をゆるめた――けど。
「ううん、いいよ。でも、ちょっと嬉しかったかも」
そういって今度はちゆちゃんがぎゅうっとわたしを抱きしめた。
「痛い?」
「ううん。大丈夫」
「もうちょっとだけこうしてていい?」
わたしは答える代わりにただ頷いた。
重みを増したように濃くなったちゆちゃんの匂いと、ずっとこうしていたいって甘えるように囁くちゆちゃんの声とに満たされて、あるいは攻められて、結局またわたしのいらいらは消えて行き、それと一緒に身体ごと溶けていくような感覚に陥った。
いっそのこと本当に溶けてしまえば幸せだったのかもしれない。でも陥るという言葉の通り、わたしはその日以来、沼の底へと沈んでいくように、ゆっくりゆっくり落ちていった。




