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「そっかー。ストーカーかあ。だからのりちゃん最近元気なかったんだ」
「うん……え? あ、と、友達の話だよ?」
「わかってる。でもさ、やっぱり心配じゃん? わたしの友達もね、前に痴漢にあったんだけど」
そういって、ちゆちゃんはわたしを抱きしめたまま、友達が痴漢された話を語り始めた。
わたしたちは今、空き教室にいた。
期末テストが近いので勉強するという名目で放課後職員室に鍵を借りに行った後は、もちろん勉強などそっちの気で、いつものように廊下から死角の位置へ移動して、こうしてお互いの背中に手を回していた。衣替えが済んで夏服に変わり、季節も身体を密着させるのには向かない時期に突入しているのだけど、幸いどの教室にもクーラーがついているからそのあたりの心配はいらなくて、その幸いには今もしっかり与っていた。
とはいえ、初めは涼しかったそれも時間が経つと寒さに変わり、そろそろ温度を上げるか風向なり風量なりを変えるかしないと風邪でも引きそうなくらいに空気が冷えていたのだけど、かえってそのほうがちゆちゃんの温もりに包まれる幸せに思う存分浸れたし、だから離れたくなくて、多少寒く感じても我慢していた。
でも、友達の話を聞いた今では別の意味で我慢ができそうになかった。




