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気のせい、だったのかな。
「のりすけ、もうそれ全部飲んでいいよ」
さっちゃんが急に沈んだ声でそういった。
「え? いいよ。まだ残ってるよ?」
「いや、あたしはもうお腹いっぱいだし。いらないならそれ、捨てといて」
ジュースを強引に渡すと、さっちゃんはちょっと落ち込んだような顔をして、髪を弄り始めた。
「どうしたの? お腹痛いの? 食べ過ぎ? トイレならすぐそこだよ」
よくつまっちゃうけど、と冗談めかしていうと、そうだね、とそっけなく返される。
空気がちょっとだけ沈んだようになる。
「そういえば、この後プールだね」
わたしは強引に話題を替えた。
「更衣室ってまだ使えないんでしょ? シャワー室ってどこにあるの?」
「部室棟の奥。あたしもまだ使ったことないけど、友達の話じゃけっこうボロいらしいよ」
更衣室はまだ雨漏りの修繕工事が終わっていないため、しばらくは部室棟にあるシャワー室で着替えることになっていた。運動部ですらあまり使用しないそこは、はたしてさっちゃんが聞いていた通り本当にボロかった。ロッカーの代わりに下駄箱を大きくしたような古びた棚があるだけで、ホコリっぽく、塗装は剥がれてるし蛍光灯は暗いし、何よりものすごく狭かった。




