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体育での時以降、わたしたちはよく隠れて抱き合っていた。月曜日の朝はもちろん、そうじゃない昼休みでも、放課後でも、あるいは授業中でも、ふたりっきりなれるのなら、たとえそれがどんなに短い時間でも、お互いの背中に手を回すことはやめなかった。
そういう時ちゆちゃんはいつも、落ち着くといってくれた。いい匂いと囁いてくれた。それだけでわたしの感じているいらいらはどこかへ消し飛んでしまって、代わりに温かいものが、それはもう溢れるくらいに心も身体も満たしてくれるのだけど、でもその溢れるものをちゆちゃんも同じように感じているのかどうかは、正直いってわからなかった。
それが不満といえば不満だったし、不安といってもよかった。
「卵焼きひとつくらいでそんなに落ち込むなよなー」
考え込んでいることを落ち込んでいると勘違いしたさっちゃんは、ほら、と飲みかけのパックジュースをさし出してきた。
「ひと口あげるから」
「うん。ありがと」
といって、ストローを咥える。その時ちりちりと肌を刺すような視線を感じて振り返ったけど、その瞬間、感じていた視線はどこかへ行ってしまった。




