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「やっぱり。でも、のりちゃんの匂いが一番するかも」
「わ、わたしの匂い?」
「そう、のりちゃんの匂い」
「汗臭くない?」
「全然。いい匂いだよ。ずっと嗅いでたいかも」
ちょっとでも傾ければキスさえできてしまえる距離で、ちゆちゃんが、甘えるようにそんなことをいう。
ねえ、もっとちょうだいって、そんな風に。
ひょっとしたらこれもカツアゲになるんだろうか。
わりとまじめにそんなことを考える。だとしたらうわさが本当になってしまう。でも、それでも別に構わないかと、そんな風にも思う。
いじめられようが奴隷にされようが。
ちゆちゃんに求められるのなら。
「いいよ。でも、わたしもちゆちゃんの匂い、嗅ぎたいな」
いいよ、とだけ答えるはずが、思わず本音まで口に出してしまう。内心動揺しながら、でもなぜか引かれたりイヤがられたりするとは思わなかった。はたしてわたしの予想通りちゆちゃんは、いいよ、と平然とそういって、そのままわたしの耳もとに顔を近づけると、
「私のでいいなら好きなだけ嗅いで」
と今度は本当にそう囁いて、わたしの手をぎゅっと握った。
それから授業が終わるまで、わたしたちは舞台袖のカーテンに隠れてお互いの匂いを嗅ぎ合った。
最後に到ってはもうただひたすら抱き合っていた。




